ガイア異変(1)

1、ガイアの異変

 「もしもし、もしもし」と強い語調で彼女はガイアに呼びかけた。さっき
でその波動を彼女は受け止め交信していたのだが、突然何も感じなく
ってしまった。水晶の板のような机の上を細いしなやかな指がけたたま
く動いた。そんほたびごとに、その机の面では黄色、オレンジ色、緑色
どがあちこちで光、また消えた。しかし彼女のいら立ちは加速する一方
った。
 突然、腰かけた椅子を押し出すように彼女は立ち上がり、やや切れ
の深紅の瞳を見開きながら緊張した面持ちで部屋の扉まで向かった。
までかかるほどの栗色の髪がたなびいたまま、大聖堂を思わせるよう
伸び上がったその扉を思いっきり開き、

  「神様」

と叫んだ。

2、アンティア登場

 暖かで天気の良い昼すぎ、他力本願寺の縁側で螢一とベルダンディ
は並んで座って、談笑していた。レポートも一段落つき、ベルダンディー
落ち着いて話すことができることに、螢一は至福を感じていた。薄紅色
ワンピースで座った彼女のそばで、さえないTシャツとGパンの螢一の
動は高鳴っていた。思わず、ためらいを感じながらも、彼女の肩にに手
かけようと左手をゆっくりと緊張させながらあげていた。
 「あら」と彼女は異変を感じる声を響かせ、立ち上がった。螢一は一瞬
直したが、すぐに「どうしたの?」と尋ねた。彼女のうなじが静止したまま、
澄んだ瞳が遠くを見つめて、なにやら不安そうな顔つきをした。

 「おかしいわ。地球の気がかすかに乱れているようだわ」

 「え、何かおかしなことが起こっているのかい?」

 螢一は立ち上がって、彼女の横から心配そうに尋ねた。

 「いえ、感じられる気がいつもよりちょっと違うようなんです」

 ベルダンディーは軒下のスリッパを履いて庭に出た。螢一もれにあわ
るようにそばについていった。なごやかな日差しが白い肌をより際立た
るのに、彼女の表情はいまひとつ不安が消えないようだった。「やっぱ
かん違いなのかしら」と左手の滑らかな指を頬にあてた。

 「はい、離れて」

 かん高いこどもっぽい声が二人の背後から現れた。メタリックんじゃ
ャンパーとミニスカートを着たスクルドだった。彼女は二人の間に割っ
入ってきて、丸っこいまだ幼い顔を不機嫌にして螢一に向けた。

 「ちょっと目を離すとこれだから。お姉さまになれなれしくしないでよと
つも言っているでしょう」

 いつもの小言だ。いつもの少し困惑した表情で螢一は応え、いつも
優しい笑みをのぞかせるベルダンディーだった。

 「だから螢一は、・・・えっ」

 スクルドは自分の足下に違和感をj感じたが、それに反応する前にバ
ンスを崩し、しりもちをついて転んだ。とっさの状況に両側にいた二人
彼女の転倒を防ぐことはできなかった。それよりも彼女の足下の異様
光景に目が向いていた。

 「いった〜、誰よ人の頭にいる奴は」

 かん高いこどもっぽい声が響いた。地面の一部が突起するように、
色の小さな頭が浮かんできて、瞬く間に全体像を現した。それは螢一
り背の低い、シルクのチャイナドレスのようないでたちだった。何事かと
分に起こった災難に一瞬気をとめていたスクルドだったがすぐにその
凶を発見した。いまだ体勢が転んだ状態だったが、二人の間に立つ後
姿は誰であるかほぼ気がついた。

 「この声、この姿は・・・」

 スクルドが何やらいぶかしそうに声を出した時、その後ろ姿は振り返
た。

 「あら、あなただったのね。気をつけなさいよ」

 やや居丈高な語調で言い放った姿は、まだ幼さの残る顔にやや切れ
の深紅の瞳を光らせ、腰までかかるほどの栗色の髪をたなびかせていた。

 「アンティアじゃないの。いったいどうしたの」

 「ベルダンディー、神様からの命令よ。あなたとウルド、スクルドは私と
っしょに至急ガイア様のもとへ赴き、ガイア様の異変を調べ、修復する
よ」

 細い唇から威圧するような声が発せられた。突然の指示にベルダン
ィーは困惑したが、すぐに冷静に答えた。

 「はい、すぐ参ります」

 「ちょっと、お姉さまに失礼よ。いくら特別な任務についているからとい
て、口が悪すぎるわよ」

「私は神様の命令を、神様に代わってあなたたちに伝えているのよ。
答えは許さないわよ」

 駆け寄ってきたスクルドとアンティアなにらみあった。「スクルド、よし
さい」とベルダンディーはすかさずなだめた。
 突如地面から現れ、ベルダンディーと同じ紋章をしたこの少女に、螢
はあっけにとられていた。我に返ってベルダンディーにおそるおそる話
かけた。

 「ベルダンディー、いったいこの方はどなたです」

 「アンティアと言うの。天界では大天才と呼ばれて、史上最年少で一
神になったの。スクルドと同い年よ」

 「説明はいいから、早くウルドも呼んで」

 「もういるわよ」

 カウボーイ姿のウルドが縁側の方からめんどくさそうに応えた。

 「外が騒がしいと思って様子を見に来てみたら、アンティアが来てい
じゃないの。こんな優等生がいったい何の用事に来たの」

 「姉さん、ガイア様のもとへ行くわよ」

 「えっ、冗談でしょ」

 「神様からの命令よ。早く準備して」

 ベルダンディーの真顔の促しで、ウルドはいそいそと部屋に行った。

 「さあ、あと五分以内に私の今いるところに集まって」

 スクルドも自分の部屋に行った。ベルダンディーは螢一の前に立ち、
しかけた。

 「ごめんなさい。私たちはこれから神様の命令でガイア様のもとへい
なければなりません。少し射えを空けますけど、心配せずに待っててく
さい」

 「どれぐらいの間行っているの?それにガイア様というのは何なんだ?」

 不安が襲う螢一はベルダンディーに問い詰めた。横からアンティア
割り込むように答えた。

 「ガイア様の修復が終わるまでよ。いつ戻るかは正確な時間はわか
ないわ」

 「じゃあ、百年や二百年ぐらいかかることもありうるんですか?」

 「そんなにかかっていたのでは、地上は壊滅しています。ガイア様の
ょっとした狂いは、それだけで地上に惨禍をもたらすのよ。せいぜい一
でけりをつけなければならないのよ」

 彼女の言葉に螢一は一時安堵したが、すぐに問い直した。

 「一日でけりをつけるということは、それだけ危険なことをするのかい?」

 「本来は私一人で十分なことなのに、神様からの言いつけで三人を
れて行かなければならないのよ。まあ連れてっても何もすることはない
しょうが。むしろ足手まといにはなってほしくないわね」

 まだ不安を隠せない螢一にベルダンディーは優しく呼びかけた。

 「螢一さん、アンティアはああ見えても、難しい高等法術をたくさん使
こなす天才なのよ。私でも彼女と力を競っても太刀打ちできないわ。安
してください」

 螢一の手を強く握りしめて彼女はほほえんだ。

 「はい、離れて」

 女神の正装を装着したスクルドが二人の間に入り、アンティアに向
って叫んだ。

 「準備できたわよ」

 「同じくね。そうだ螢一、コンニャクマンを録画しといて」

 ウルドも縁側から、女神の正装のいでたちで、こたえた。

 「それでは私は螢一さんにこれを渡しておきます」

 ベルダンディーは両手の平を螢一に突き出した。そこに小さい手鏡
あった。

 「この手鏡は私の思念を物質化したものです。必要ないと思いますが、
心配されているので、これを渡しておきます」

 言い終わると、ベルダンディーは自分も女神の正装へと変化した。

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