期限切れの俳優鑑札

 すみれの引退の話がかすみ達にも伝わってから、事務局内では
折話題となった。すみれに関わる思い出、すみれの将来のことなど、
楽しさと寂しさが入り混じった話がいつの間にか始まり、いつの間に
終わっていた。

 その日、事務局内で彼女の話題が出たが、途中でかすみが何か思い出した。

  「そうだわ、忘れないうちにすみれさんに返すものを整理しておかないと」

 さほど重要でない事務的なことをとりあげ、ややとりつくろったよう
声で手を動かし始めた。

  「由里、すみれさんの俳優鑑札を引き出しからとって」

 由里は書類入れの引き出しを開き、すみれの俳優鑑札を取り出した。
 この鑑札は、俳優という職業を始める時に申請し、内務省から交
されるものである。いわば営業許可証のようなもので、この鑑札が
いと、舞台に立つことができなかった。
 鑑札には、八等俳優と明記され、住所、本名、芸名などが書か
ていた。手元で注視していた由里は、

  「あれ、この鑑札、期限が切れているわ」

 と少しあわてた口調で声をあげた。

  「え、見せてみて」

 由里から鑑札を受けとって見ると、確かに期限が太正15年9月25日となっていた。
 二人はあわてて、新規の鑑札が届いていないか、または更新手
きに関する書類などを捜した。しかし、更新された鑑札は出ず、か
りに手続きがされてなかったことがわかった。

  「なんてことのなの、俳優の資格のないまますみれさんを舞台に立たせていたなんて」

 由里は驚きといらだちのまじった声を出した。

  「俳優協会に行って更新手続きをして、新しい鑑札をすぐもらっ
きてちょうだい。原因は後から考えましょう」

 興奮気味の由里に、かすみはすぐ言い聞かせるように呼びかけた。
 その声に我に帰った由里は、その古い鑑札を鞄に入れ、外出の
支度を急いですると、「行ってきます」と早足で事務局を出て行った。

 ・・俳優協会に訪れた由里は、更新の遅れを詫びて、すみれの
資格の期間を清算してもらった。そして無事に新しい俳優鑑札を受け取ることができた。

 後にこの鑑札を受け取ったすみれは、それが無資格期間を清算
た鑑札ということとは知らず、生涯そのことに気付くことはなかったようである。

セガ公式サイト「サクラ大戦 BBS」       
帝劇女優は八等俳優 由里、俳優鑑札更新を急いで 2005/03/13より

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