豊島区――南池袋公園。
「はあっ、なんかちょっと、びっくりしたね……」
ベンチに腰掛けて、小蒔が空を仰ぐ。その声もどこか疲れた感じだ。
「普通の人達が、急にあんな風になっちゃうんだもん」
「あぁ、まったくだぜ。憑依師か……予想以上に厄介なヤローだな」
忌々しげに、京一も自分の手に拳を叩き付ける。
霊に憑かれた人間、それも一般人がここまで手強くなるとは予想していなかった。憑いていたのが動物霊だからなのかも知れないが、できるなら、もう戦いたくない相手だ――そうは言ってられないのが現状だが。
「とりあえず、連絡はしておいたよ」
先程まで携帯を使っていた龍麻がこちらを向いた。
「酷い人は桜ヶ丘行きになるかも知れないけどね」
廃屋での戦闘で倒した、憑かれた人々をそのままにしておくわけにもいかず、龍麻は桜ヶ丘へ連絡を入れたのだ。憑かれた影響が出ていないとも限らないし、何より《氣》による攻撃を与えている。用心に越した事はない。
「そうか。まぁ、手加減しようにも難しい相手だったからな」
「今更だけど、ミサちゃんに対処法を教えてもらっておけばよかったかもね」
端から聞いていると他愛ない龍麻と醍醐の会話だが、その表情は明るくない。二人とも、これ以降の事を考えて気が滅入っていたのだ。
憑依師の居場所は分からぬまま。敵は憑かれた一般人。しかも無尽蔵ときている。前向きな考えなど浮かんではこない。
「とりあえず。天野さんが起きるまで、打つ手なし、か」
ベンチに寝かせている天野に、龍麻は目をやる。憑依師と接触している可能性がある彼女から、情報が引き出せれば、と考えているのだ。
「う……ここ……は……?」
その時、ちょうどタイミングよく天野が目覚めた。上体を起こし、寝ぼけた様子でまわりを見る。その視界には、天野が目を覚ました事でホッとしている龍麻達の姿が映った。
「龍麻君……みんな……!? 私……一体、どうしたのっ!?」
ベンチから降りようとした天野だったが、身体の方は不調らしく、蹌踉めく。それを側にいた醍醐が支えた。
「急に起きあがったら、危ないですよ、天野さん。あなたに取り憑いていた憑依師は、俺達が追い払いました」
「そうよ……そうよ、私……この事件を追ってて……」
天野は額を抑えながら、思い出した事をそのまま口に出していく。
「あの男に会って……彼は私を利用してやるって言ったのよ!」
そこまで言って、ハッとした表情になり、恐る恐る訊いてきた。
「私……もしかして、あなた達に酷いことを?」
「なに、別に気にするほどのことじゃねぇよ。エリちゃんも俺達も、こうして無事だったんだしな」
ニッ、と笑って京一は天野の肩を叩いた。天野が悪いわけではない。彼女も巻き込まれただけなのだ。
「みんな、ごめんなさい……私、手助けするつもりが迷惑かけちゃって……」
しかし、天野の方は気の毒になるほど気落ちしていた。その理由も分かる。以前等々力で迷惑を掛けた事を、まだ気に病んでいるのだろう。天野としてはその時の借りを返したかったのだろうが、結果は――
「龍麻君……本当にごめんね……」
「天野さんが悪いわけじゃないです。天野さんが無事なら、それでいいですよ」
謝る天野に、龍麻の方は優しく応えた。表情にも曇りはなく、穏やかな笑みを浮かべている。見る者を安心させる笑みだ。
「ありがとう、龍麻君。あなたは本当に優しい子ね……」
「おだてても、何も出ませんよ。それよりも……天野さんは、あの憑依師の正体、知ってますね?」
龍麻の問いに、ようやく天野はいつもの表情を取り戻した。
「憑依師……そう、そこまで知ってるのね」
「ええ。このテの事に詳しい仲間がいますし、遠野さんもこの件では色々と調べてくれましたし」
「相変わらず、いい腕してるわね、杏子ちゃんは」
「う〜ん。アン子が聞いたら泣いて喜びそう。アン子、天野サンにすっごく憧れてるしっ」
その様子を想像でもしたのか、小蒔が笑っている。
「ふふっ。正直、私も彼女の情報収集能力には舌を巻くわ。でも、アン子ちゃんが彼に会わなくて、本当によかった」
言いつつ天野は、いつも持っているバッグから手帳を取り出し、パラパラとめくり始める。
「え……っと、豊島、狗理沼高校三年、火怒呂丑光――それが、憑依師の正体よ。憑依師は、あらゆる霊を自在に操り、時に、人を取り殺すことを生業としていた……その中でも、特に一部の憑依師達が、好んで、火怒呂という呼び名を用いたらしいの。そしてそれが長い時を経て、その血を受け継ぐ一族の呼び名として定着した……私がそれに気づいた頃――彼の方から現れたのよ」
「そして、そいつに取り憑かれた……僕達を罠にはめるために」
結果、見事に自分達は罠にはまった。天野が霊に憑かれている事を承知で、廃屋まで行ったのだから、自分達から飛び込んだの方が正解かも知れないが。
「それじゃあ、やっぱりその火怒呂って人が、帯脇に蛇の霊を憑かせたんですね。そして帯脇から皆さんのことを聞いて、知っていた……」
自然と霧島の表情が険しくなっていく。帯脇とて、大蛇の霊に憑かれていなかったら、あそこまでの事はしなかったはずだ。そう考えると、火怒呂への怒りが湧き上がってくるのだろう。
「でも、彼の目的は、一体、何なんでしょうか?」
「そうね、そこがどうにも腑に落ちないのよ。彼自身は、人間全てに獣の霊を憑依させ、その獣の王国の王として、自分が君臨するんだと言ってたわ」
「なんだよそりゃ? そんなにケモノ好きなら、動物園にでも就職しろってんだ。何で人間に霊を憑かせる必要があんだよ?」
それを聞いて、渋い顔で京一が首を捻っている。
「そうすることで、何が起きるか……それが重要なのかもね」
ぽつり、と龍麻が漏らす。それに感心したように天野は頷いた。
「ええ……獣の霊に憑依された人々が世に溢れる……その事態が意味するものは……」
「この場合は、東京が大混乱に陥るという事、ですね」
その言葉に、京一達は息を呑む。同じような事態を引き起こそうとした存在を知っていたからだ。かつて、自分達が闘った鬼道衆。彼らも菩薩眼を覚醒させるという目的のために、様々な事件をこの東京で起こした。
「誰か――火怒呂を利用している奴が……?」
醍醐の言う通り、そう考えると色々と辻褄は合うのだ。
「鬼道衆のように、誰かが《力》持つ人達を操って、この東京に混乱をもたらそうとしているのかも知れない……もしそうなら……絶対に阻止しなくちゃ……ね、龍麻くん?」
「うん。向こうはこちらを敵と認識してる。いずれぶつかる時が来る。その時が来たら、絶対に片を付けてやる。これ以上……嫌な事件を起こされてたまるもんか」
葵に頷き、龍麻は自分の手に視線を落とす。完治した右手は、龍麻の意志に従い平手を拳へと変えた。
「そうね。龍麻君と葵ちゃんの言うことも、もっともだと思うわ。この事件の背後には、何か大きな力の存在を感じるの。鬼道衆をもはるかに凌駕する――抗いがたい、運命とも言える《力》……でも、あなた達ならそれを覆すことができる。私は……そう信じてるわ」
「運命を覆す力、かぁ。なんか……自信出てきたねっ」
「へへっ。いいこと言うぜ、エリちゃん」
微笑む天野に、小蒔と京一は顔を綻ばせる。しかしそれは一瞬だった。
「よし。それじゃ、これから早速火怒呂って奴の居場所を――うっ――!?」
動こうとした京一が不意に止まる。笑みも消え失せ、驚愕に顔を染めていた。
「京一先輩……? 京一先輩! どうしたんですかっ!?」
「わから……ねぇ……ただ、体が……俺の……俺の体があぁぁっ!」
駆け寄った霧島が京一の肩を掴み、揺さぶる。脂汗を浮かべながら、京一は膝を着いた。その身体から、紅い光が滲み出る。
「しっかりしろ、京一! 一体、どうした――むうっ!」
「醍醐くん……!?」
「ぐっ……! 頭が……頭が……! 頭が……割れそうだっ!」
苦悶の表情で頭を押さえ、醍醐も両膝を落とした。
「あ……葵……!ボクも……体がヘンだよ……なんだよ、これ……熱い……熱いよぉっ!」
続けて小蒔も自らの身体を抱きしめ、その場に崩れる。
「小蒔! 京一くん……醍醐くん! 一体、みんなどうしてしまったの!?」
「同じだわ……私が……彼に体を乗っ取られた時と同じ……」
混乱する葵の耳に、天野の震えた声が飛び込んできた。
「もしかしてこれが……あいつが言っていた、逃げられない、って意味……?」
「勝敗ではなく、闘わせること自体が罠だったんだわ……」
「そうか……あの時だ――っ!」
天野以外の憑き物つきを倒した直後、三人の様子がおかしくなった時があった。その時は天野の保護優先で動いたため、特に気に留めることもなかったが――
「憑依師と対峙した時に、もう憑けられてたんだ……」
「だ、だって、龍麻さんはそれを見抜けるんでしょう!?」
霧島が言うことももっともだが。だが、その《力》を行使するには条件があった。
「霊体そのままならそうなんだけど、憑かれた人間は、そう意識して視ないと駄目なんだ。廃屋の時に視てれば気づいたかも知れないのに……」
霊を視る《力》、人外を見抜く《力》。前者は普段も働いているが、後者は使う意志を持って初めて発動する。霊に憑かれた人間は、今までの経験からすると人外に分類されるようで、ただ見ただけでは分からないのだ。
もっとも、仮に見抜けていたとしても、この事態を回避する術があったわけではないのだが。憑き物つきに有効な対処手段は持ち合わせていないのだから。
「みんな……どうしたら……どうしたらいいのっ!?」
「京一先輩……くっ! どうすればいいんだっ!」
打つ手がない。葵、霧島、天野は、ただただ状況を見ていることしかできない。そんな中で、龍麻が一歩進み出た。その右手には《氣》の光が見て取れる。
「ち、ちょっと! 龍麻さん、何をする気なんですっ!?」
目を見開き、裏返った声で叫ぶ霧島に、龍麻は一言。
「動きを止める」
「そ、そんなことしたら、京一先輩達もただでは済まないじゃないですかっ!」
「完全に支配されてからじゃ、遅いんだよ。一般人でさえ、戦闘力が跳ね上がったんだ。京一達が完全に敵に回ったら無傷では――いや、殺さずに止めることなんてできなくなる」
「だ、だからって!」
「もしそうなったら、僕以外の人は……その前に、戦闘不能にしないと――」
苦い表情のまま、龍麻は京一達に視線を移す。相変わらず苦しんでいるが、完全に支配されてないのは、彼らの意志が強い故だろう。とは言え、それも時間の問題だ。
普段でも龍麻に次ぐ戦闘力を持っている醍醐と京一だ。攻撃力だけなら小蒔だって決して侮れない。その能力が跳ね上がったら、少なくとも「今のまま」では勝てない。となると、龍麻は封印を解除しなくてはならなくなるし、そうなると勝っても自分の身体はダメージを受ける。その後、憑依師に攻められたら――アウトだ。
完全に憑かれてしまう前に、動きを止める以外に道はない。憑いた霊を祓える者がいれば別だが、それをできる者は仲間の中にはいないのだから。
決意を固め、発剄を放とうとしたその時だった。
「なんや、人の枕元でそないに騒がんといてやぁ」
緊張感のない声が、背後から聞こえた。
「誰――!?」
声のした方へと、葵が振り向く。そこにいたのは一人の青年だった。東洋人ではあるが、どこか日本人とは違う顔立ち。左目には刀傷。白いバンダナらしきものを額に巻き、赤いシャツを着ている。
青年は大欠伸をしながら起きあがった。
「まったく、わいの大事なお昼寝タイムが台無しや」
「あなた……一体、誰なの?」
「誰なのって……見たら分かるやろ。熟睡中を叩き起こされた、気の毒な中国人留学生や……と、いくらなんでもそこまでは分からんか。まぁ、ええわ」
天野の問いにそう答え、自称中国人留学生は、上着――学生服を着た。
(ん……? この人、どこかで見た覚えが……)
「ほんま、池袋っちゅうんは騒がしいとこやなぁ。おちおち昼寝もしてられへん――」
「あぁ――っ!」
何やら愚痴っている青年を見て、霧島が大声を上げた。
「なっ、なんやなんや……」
「あなたは……あなたは、あの時僕を助けてくれた……!」
何事かと皆が見守る中、霧島がそんなことを言う。それを聞いて、青年はまじまじと霧島を見た。
「その声……聞き覚えがあるで。それにその顔も……おぉっ、やっぱりそうやっ! あん時、死にかけてた少年やんか! なんや、すっかり元気そうやな。よかったなぁ。成り行きとはいえ、心配しとったんやで。やっぱ、岩山センセっちゅうのは、スゴイ人なんやな。じいちゃんに聞いてた通りやったわ」
ようやく、青年と霧島の関係が見えてくる。
「それじゃあ、この人が……霧島くんの命の恩人なのね?」
「はいっ。僕を病院まで運んでくれたんです」
確認を取る葵に、霧島は頷いた。話を聞く限り、やはり霧島を桜ヶ丘に運んだのは偶然ではないようだ。
「ははっ。なに、当然のことやんか。それよか、そっちにおるんは病人かいな。なんやったら、わいが診たるけど――」
そう言って青年は龍麻達の背後に蹲っている京一達に目を向け
「少年……この池袋で何しおったんや」
厳しい表情で京一達を見ながら、持っていた袋の口を解く。そこからのぞいたのは、剣の柄だった。
「えっ……?」
「あんたら……一体、何を知っとるんや? 隠さんと……正直に言うてみぃ!」
厳しい視線と声。先程とのギャップに、霧島は目を白黒させている。そんな中、葵が進み出た。
「私達は、ここで起きている事件を解決するために来たんです」
「葵ちゃん!」
そして正直に事の次第を口にした。その隣で天野が、軽率だとばかりに名を呼ぶが、葵は構わずに続ける。
「敵の正体は突き止めたんですが、仲間が、その人に……」
「……詳しい話は、後や。あんたらは、さがっとき!」
葵の言葉に青年は何やら考え込んでいたが、剣の入った袋をそのまま背負うと京一達の方へと向かおうとする。
「何をするつもりなのっ!?」
先の青年の剣幕から警戒したのか、天野はその場に留まった。しかし青年は人なつっこい笑みを浮かべると、軽く天野の肩を叩く。
「安心せぇ。わいの剄は本場もんや。それにわいは、多分……あんたらの敵やない。ええから、下がっときっ」
そのまま横を抜けて、京一達の前で止まった。天野は龍麻の方を見たが、この場を任せることにしたのか、龍麻は軽く頷き、青年に注目する。
「我求助、九天応元雷声普化天尊、我需、無上雷公、威名雷母、雷威震動便滅邪――!」
青年の口から呪が漏れる。それに伴い、青年の身体を光が包み込んだ。陰《氣》ではない。蒼い光は陽の《氣》のそれだが、微妙に違う。
「な、何なの、この光は――!」
「分からない。でも……とても、神聖な輝き――」
「活剄――!」
戸惑う女性達をよそに、青年の《氣》が放たれる。蒼い光が京一達を包んだ瞬間、その身体から獣の霊が飛び出し、何処かへと消えていった。
(人体に影響を与えずに、憑いた霊だけを祓ったのか……)
青年の見せた剄に、龍麻は感心した。あれが使えれば、先の戦闘でももっと安全に憑かれた人々を倒せていただろう。
「うっ……」
「うっ……くう……」
「あれ……? ボク……どうしちゃったの?」
よろよろと、京一達が動き始める。どこか呆けたような感じは天野の時と同じだ。
「小蒔! ――みんな!」
「よかった……憑き物が落ちたのね! 本当に……よかったわ……」
無事に霊から解放された三人を見て、胸をなで下ろす葵と天野。
「そうか……今のが、獣の霊……」
「くくっ。おいおい醍醐、顔が真っ青だぜ? 助かったばっかで、また倒れんじゃねぇぞっ」
頭を振る醍醐に、からかうような京一のセリフ。とは言え、京一だって人のことを言えた義理ではない。同じように顔色は悪かった。
「京一先輩……大丈夫ですか?」
「ん? ……あぁ。みっともねぇとこ見せちまったな、諸羽」
「そんなことありませんっ! でも……よかった……」
ばつの悪い表情の京一。無事だったことに、霧島が安堵の表情を浮かべている。
「小蒔も……大丈夫?」
「う……うん……なんか、すごくヘンな感じだったよ。自分の中の、もう一人の自分に吸い込まれるみたいで……」
様子を訊ねる葵に、後味の悪そうな顔をして小蒔が答える。あぁ、と醍醐も頷き、自分の身体を見下ろしていた。
「……確かに妙な感じだったな。この体の中に、俺の知らないもう一人の俺がいる……アレに覚醒した時にも似ていたが……霊云々よりも、そのことの方が嫌な後味だな……」
「でも……みんなが無事でよかったわ。とりあえずは一安心ね、龍麻君」
「えぇ……手荒なことをせずに済みましたからね」
天野の言葉に龍麻は苦笑い。青年の登場がなかったら、先程の憑き物つきの人々同様、憑依師の思うつぼだとしても、戦闘不能にしなければならなかったのだから。
「ところで龍麻。あっちにいるのは、一体、誰なんだ?」
醍醐の視線の先には、中国人留学生の姿があった。皆の視線が集中すると、青年は照れたような笑みを浮かべる。
「あっ、この人は、あの時僕を助けてくれた人で、今も不思議な技で、皆さんから獣の霊を追い払ってくれたんです。えっと……」
説明をした霧島が、そこで言葉を詰まらせる。
「あの、お名前は……?」
「ははっ、そうやった。自己紹介がまだやったなっ」
青年は笑って、名乗った。
「わいは、台東区華月高二年、劉弦月。今年の春に、知り合いを頼って中国から留学して来たんや。まぁ、よろしゅう頼むでっ!」
「こちらこそ、よろしく。仲間を助けてくれて、どうもありがとう」
「ハハッ。なんや、そないな風に言われると、わいも、めっちゃ嬉しいわっ」
手を差し出す龍麻に、劉はその手を握り返す。そこへ
「ちょっと待て」
やや警戒気味の京一の声が割って入った。
「助けてもらっておいて、なんだけどよ、何で中国人のクセに関西弁なんだよっ?」
「おっ? おっ!? ええなぁ、ええツッコミやわぁ」
京一の態度も気にした様子はなく、何故か嬉しそうに劉は笑う。
「わいなぁ、ほんまは中国人やのぉて、関西人なんやっ。大体、こんな関西弁ペラペラの中国人おったら、気持ち悪いやんか」
「その割には、少し感じが違うような気もするけど……」
何かが違う、そう感じた龍麻が、そのままを口にする。すると劉はぴた、と止まって
「くぅ〜っ、なんやなんやっ。あんたら、ぼけっとしてるようで、ちゃんとツッコめるやないか! わい、ほんっまに嬉しいわっ」
と、何故か大喜びだ。その反応に、龍麻はやや退いていた。
「そのお礼に、ほんまのほんまのこと教えたるっ。わいは中国生まれの中国育ち、ほんまもんの中国人やっ。ほんで、日本で最初に世話んなった人が、ほんまもんの関西人やったもんでな、わい、ほとんど日本語喋れんかったさかい、見様見真似で喋っとったら……この始末やっ。今更、標準語覚えるんはえらいこっちゃし、ハハハッ、せやからこんなんなってもうてん」
息もつかないといった感じの劉のトークに、龍麻達は半ば呆れ顔だ。
「なんか、むちゃくちゃテンション高いね、この人」
「アランと会わせたら、とんでもないことになりそうな気がするよ……」
どこか疲れたような小蒔の一言に、龍麻も同感とばかりにそんなことを言う。そんな小蒔の声は聞こえたのか
「何ゆうてんねん、嬢ちゃん。会話ってヤツはこう、ポンポンポ〜ンっと、弾むように進めな、あかんのやっ」
と主張する劉。そして、ふと気づいたように龍麻達を見る。
「さっきから、わいばっかり喋っとるけど、あんたらの名前、わい、まだ聞いてへんで?」
「やれやれ、ようやくこっちに話が戻ってきたな。俺は、新宿真神学園の醍醐雄矢、こっちで放心してるのが、同じく真神の蓬莱寺京一だ」
軽く息をついて醍醐が名乗り、隣の京一を小突く。
「くくっ、京一ってば、劉クンのノリに付いていけてないみたいだねっ。あっ、僕は同じく真神の桜井小蒔。で、こっちが同じく美里葵」
「よろしくね、劉くん」
「それから私は、天野絵莉よ。ルポライターをしていて、みんなとは友達なの」
「さ、さよか……」
続いて女性陣が自己紹介をするが、天野が名乗ったところで、劉に動揺が見られた。
「あれ? どしたの、劉クン。天野サンが、どうかした?」
「えっ? い、いや……何でもないんやっ。ただ、わいちょっと、年上の女性
小蒔の問いに、誤魔化し笑いをする劉。どうやら過去に色々あったと見える。
「あっ、僕は、霧島諸羽といいますっ。文京、鳳銘高校の一年ですっ。劉さん、あの時は本当にありがとうございました。今僕がここにいるのは、劉さんのお蔭ですもんねっ」
「ほんま、礼儀正しい少年やなぁ。けど、そんな昔のこと、もう気にせんでもええでっ。さてっと――そういや、あんたの名ぁも、まだ聞いてへんかったな――」
頭を下げる霧島に、ぱたぱたと手を振って劉は最後の一人に目を向けた。
「おっ! あんた、あの時の別嬪さんやないか!」
「目青不動で一度会ったね。でも、男に別嬪さんはないんじゃないかな?」
「ハハハッ。あの時と同じこと言うんやな。で、あんたのことも、わいに教えてくれんか?」
「真神学園三年、緋勇龍麻。あらためて、よろしく」
「緋勇……?」
劉の表情が動く。
「あんた、緋勇いうんか?」
「そうだけど。……どうかした?」
劉の様子に怪訝な表情になる龍麻。明らかに劉は、自分の名に反応した。
「い、いや……ええ名やな、思うただけや。やっぱりわい、あんたとはえらい気が合う、思うわっ。ほんま、よろしゅうな、緋勇っ!」
ばしばし、と龍麻の肩を叩いて、劉は皆に向き直る。
「さて、そんじゃ、そろそろ行きまっかっ!」
「行くって……お前まさか、俺達についてくるつもりじゃねぇだろうなっ!?」
ようやく復活した京一が、目を見開いて叫ぶ。だが劉はあっけらかんと
「もちろんそうや。わい、困っとる友達を見捨てておけるほど、冷血漢とちゃうで?」
「いつの間に友達になったんだ?」
真面目な醍醐は一人呆れていた。どうにも、こういう「勢い」を持った人間は苦手のようだ。
「何だかこんな展開、前にもあったような気がするわ」
「確かに……」
確かアランが仲間になった時も同じような感じだった。それを思い出したのか、天野と小蒔が苦笑いを浮かべる。
「でも、劉クンがスゴイ技を持ってるのはよく分かったし、それなら……やっぱり一緒に来て欲しいよねっ」
「えぇ……私も賛成だわ」
「僕もそう思いますっ。劉さんは、僕や、京一先輩や、皆さんを助けてくれた人です。そんな人が一緒に闘ってくれるならすごく心強いですっ!」
小蒔、葵、霧島の三人は賛成のようだ。
「くうううぅぅぅぅぅぅ。みんな、ええお人やなぁ……初対面のわいのこと、そんなに信用してくれるやなんて。わい、感激や――っ!」
「大袈裟な奴だな……だがまぁ、俺も異存はない。その背にした刀も、相当な腕と見えるしな」
呆れた表情はそのままに醍醐も同行には賛成する。そこへ、反対の一票が入る。京一だった。
「そうは言ってもよぉ、なんか、胡散臭ぇヤツだよな」
「京一先輩……でも、この人は……劉さんは、僕の命の恩人です。それに、京一先輩のことも、助けてくれたじゃないですかっ」
霧島は渋る京一にそう言って、今度は龍麻の方を向く。
「お願いです、龍麻さん。劉さんも一緒でいいですよねっ?」
捨てられた子犬のような目、というのはこんな感じなのかななどと、霧島を見ながらくだらないことを考えつつも、龍麻の答えはすでに決まっていた。
「現時点で、憑き物つきに有効な攻撃手段を持っているのは劉だけだし。それを考えると、劉が来てくれると助かるよ。僕からは、反対する理由はない。どっちにしても賛成多数だから、京一が何を言っても連れて行くけど」
「ったく、しょうがねぇなぁ……まぁ、確かに俺もこいつの刀術には興味あるし……好きにしなっ」
一人がごねたところで、最後に勝つのは民主主義――数の暴力である。結局、京一も折れた。となると、次にすべき事は一つ。
「それじゃあ、新しい仲間も増えたことだし、そろそろ出発――」
「って、どこへやねん!」
意気揚々と言いかけた小蒔だったが、そこに劉のツッコミが入った。さすが本場仕込み、などと小蒔が後ずさるのを尻目に、醍醐は顎に手をやる。
「確かに、正体は分かったが、居場所が特定できんな……だが、俺達が無事なのを知れば、奴も黙ってはいまい」
「でも、それまで様子見、っていうのもどうかな……一番可能性があるのは、火怒呂の学校かな? 帯脇もそうだったから、ってのは単純だけど……」
などと考え込む醍醐と龍麻だったが、劉が天野に問いかける。
「なぁ、天野はん。あんたはん、こんな事件を追っとるルポライターなら知ってるやろ? この辺りに渦巻く怨念の正体を……」
「怨念……? そうね、確かにこの辺りには、護国寺や本立寺、雑司ヶ谷霊園といった、墓地の数も多いけれど……それにしても――強い怨恨……?」
考え込む天野。ふと顔を上げ、龍麻に訊ねる。
「ねぇ、龍麻君。あなたはこういう、心霊に関する話を信じている?」
「ええ。天野さんは知りませんでしたっけ? 僕は霊を視ることもできますし、会話もできますよ?」
事も無げに答える龍麻に、天野の目が点になった。少しの間をおいてようやく我に返る。
「そ、そう……そんなに身近だったのね……それに、今までに追ってきた事件を思えば、今更な質問だったわね。で、あなたは今、それを感じる?」
「いえ……池袋に来てから、嫌な感じはしてますけど……確かに動物霊はそこかしこに溢れてますけど、怨恨とかどうとかは……何か心当たりがあるんですか?」
「えぇ。憑依師は、怨恨つのる人々の呪を聞き入れ、猛る怨念を人に取り憑かせるのが生業――その術を使うには、それ相応の地相が必要だってこと」
地相――土地の吉凶の相を示す言葉だ。この場合は、怨念が宿る場所、またはその怨念を利用しやすい場所があるということだろうか。
「池袋に、古戦場跡とか処刑場の跡でもあるんですか?」
「かつて、東京拘置所
そう言って天野は遠くを見つめる。ここからはよく分からないが、確かサンシャインがある辺りだ。
「戦犯といえば、同情の余地は少ないように思うかも知れないけど、実際に処刑されたのは、ほとんどがB、C級の戦犯ばかり。ただ法律に従って、戦場に駆り出され、お国のために、上官の命令に従っただけの忠実な軍人達……信じ続けた軍に、お国に裏切られたその無念の想いは……」
「深い怨念となってその地に留まった、か……激しい怨みを抱いて死んでいった人も、少なくはないでしょうしね」
信じる者に裏切られた無念――いかほどのものだろう。想像して、龍麻は大きく息を吐く。対処できるといっても、自分や葵がそんな場所に近付いたら、何かしらの影響は受けてしまうだろう。
「そこに間違いないで……ヤツはその強力な怨念の場を居として、街中に憑き物を放っとるんや。で、それはどこや?」
劉は厳しい表情のまま、天野に先を促す。
「東京拘置所は、今では小さな公園に姿を変えているわ。この先の大きなビル――サンシャイン60のすぐ隣だから、すぐに分かるはずよ」
「そうと決まりゃあ、行くしかねぇなっ!」
「あぁ。天野さん――」
京一に答え、醍醐は天野に呼びかける。分かってるわ、と天野は頷いて見せた。
「また、あなた達の足を引っ張るようなことになったら、今度こそ……きっと自分で自分が許せない。私はタクシーを拾って、すぐに池袋
「その方がいいです。天野さんは一度憑かれて消耗してますし、もしもまた憑かれるようなことがあれば、どうなるか分かりませんから。一応、ここを離れたら、新宿の桜ヶ丘中央病院に行って、診てもらってください。僕達のことを出せば、話は通じるので」
「分かったわ。色々とありがとう、龍麻君。あなた達の方こそ、気をつけて。しっかりね!」
天野はそのまま公園を出て、駅の方へと歩いていく。
「よっしゃあ、ほな、そろそろ行こか」
「そうだな。行くぞ、みんな――」
サンシャインの方へと視線を向ける劉に同意し、醍醐が皆を促す。
龍麻達は、目的地へと駆け出した。
サンシャイン通り。
目的地へと急ぐ一行。しかし人混みに阻まれ、なかなか先へは進めない。先程よりも人出は増しているようだった。
「くそっ、呑気に出歩きやがって! こっちは、急いでるってのによっ!」
「ホント、人をよけながらじゃ、走るのにも一苦労だよっ」
走りながら愚痴をこぼす京一と小蒔。賑やかな街の方が好きだと言っていた二人だが、場合が場合だ。こういう時は賑やかなのが煩わしい。
「あっ――! 信号が変わっちゃう!」
「急げっ――!」
「わっ、わっ、なんや急に!」
「ちょ、ちょっと――っ!」
点滅する信号に気付いた小蒔達が慌てて横断歩道を渡っていく。しかし、龍麻と劉は、対応しきれずに信号に引っかかってしまった。道路を挟んだ向こう側で、京一達が立ち止まっている。
「しもうた……わいと緋勇だけが、渡りそこねてもうたな」
「どうも、人混みを歩くのは苦手だね。慣れたとは思っていたけどまだまだ、か」
「しゃあない。大人しゅう、青になるのを待と」
信号が変わったらすぐにでも動けるよう、二人は車両用の灯器に目をやる。今は急いでいるのだ。車両用が赤になったら、目の前の歩行者用が赤のままでも出発――見切り発進もやむを得ない。
「なぁ、緋勇」
信号を見たままで、劉が口を開く。
「もしかしたら、わい、こんな風について来てもうて、迷惑だったんとちゃうか?」
「どうしてそんな風に思うの? 頼もしいとは思ってるけど、迷惑だなんて考えてないよ」
どうしてそんなことを訊くのか、と不思議に思うが、正直に龍麻は答える。劉の表情が、ぱっと輝いて見えた。
「ほんまか!? わい……わい……今、めっちゃ嬉しいねん。緋勇……あんた、ほんまにええやっちゃなぁ」
「そ、そう……?」
劉の高いテンションに、圧され気味の龍麻。だがそれも一瞬だった。劉の気配が変わったのだ。憑き物つきと対峙した時と同じ、厳しい表情で呟く。
「わいにはな、この東京でやらなあかんことがあるんや。せやけど……もしかしたら、あんたにも会えるんやないかと思うてた」
「僕に……?」
先に自己紹介した時にも思ったが、劉は自分の名に反応した。それが龍麻には不思議でならない。
「占師やった死んだじっちゃんに、わいは、よう聞かされとった。日本におる、緋勇龍麻っちゅう奴と、いつか……共に闘うために出会う、て。それに、わいとあんたは昔、一度会ってるんやで。ずっと前……あれは確か――」
「おいっ! 何やってんだよっ!? 信号、もう変わってるぜっ! 早くしねぇと、置いてくぞ、お前らっ!」
「って、もう置いてっとるやないかっ!」
道路の向こうから京一の声が届いた。しかし劉のツッコミ通り、京一達はすでに駆け出してしまっている。このままでは引き離される一方だ。
「なんて、ツッこんどる場合とちゃうわ。へへっ、行こうで、緋勇!」
「う、うん……」
(劉は、僕のことを何か知ってるみたいだ……昔会ってる、っていうのも目青の時のことを言ってるんじゃない。もっと前……でも、僕は彼に会った記憶がない。どういうことなんだろう?)
「おーい、緋勇! なにしとんのや!?」
「え、ごめん……!」
思考の海へと沈んでいる間に、劉との間も離れてしまっている。気になることはあるが、今やるべきことは一つ――龍麻は劉の後を追った。
豊島区――東池袋中央公園。
「ここかいな……」
「あぁ、間違いねぇな。イヤな気配がプンプンしてやがる」
劉と京一が、顔を顰めながら公園の方へ注意を向ける。サンシャインの真下、公園の入り口手前で、龍麻達は一旦止まっていた。
日も落ちかけ、薄暗くなり始めている。周囲の人出は相変わらず……いや、多くなっていた。
「公園の噴水の前に、人が集まってるよ」
様子を見に行っていた龍麻が戻ってくる。
「二十人近く……結構な数だね」
「それって、やっぱり憑依された人達、ですよね……」
不安げに確認してくる霧島に、龍麻は首を縦に振った。
「襲撃に備えて、あらかじめ兵隊を集めといた、ってとこやろ。どこまでも、用意周到なやっちゃで」
どこか軽い口調で、劉は背中の武器を抜く。日本刀とは違う、幅の広い片刃の武器――朴刀。
「まぁ、ここまで来といてうだうだゆうても始まらへん。ほな、行ってみよか」
とんとん、と刀で肩を叩き、劉は側の階段を下りていく。
「よし、僕達も行こう」
それぞれが自分の武器を準備して後に続く。そして、公園の敷地に足を踏み入れた時点で、龍麻と葵が立ち止まった。
「こ、これはまた……」
「あっ――」
二人の身体を蒼い光が包み込む。京一達には見慣れたものだし、何が起こったのかも見当がつくが、霧島と劉は突然の出来事に戸惑っている。
「ど、どないなっとるんや……?」
「ちょっと、ね。ここの《陰氣》がきつくて、さ……それに……」
「えぇ……胸が……苦しい……悲しみと痛みが流れ込んでくる……この地に染みついた、怨恨の叫びが……」
顔を歪める二人。だが、これで確信できる。憑依師は、ここにいるのだ。
「ほう……? それを感じ取れるとは、少々、てめぇらの《力》とやらをみくびっていたかもな」
それを証明するかのように、噴水の方から声がかかった。多くの人々の中から、杖らしい物を片手に、制服の男が進み出る。赤い髪をした、色白で、目つきの悪い男。
「……お前が、火怒呂だね」
無数の動物霊を従えた男を視て、龍麻は確認の意味で訊ねる。
「くくく、よく来たなぁ。この俺が、稀代の憑依師――火怒呂丑光様よっ」
「何が稀代の憑依師だっ! こんなヒドイことばっかりしてっ!」
名乗る火怒呂に、怒りも露わに小蒔が指を突き付ける。
「酷いこと、だとぉ?」
言葉の意味を噛みしめるように火怒呂は首を傾げ、次には何がおかしいのか声を上げて笑い始めた。
「俺は、ただ、人間の本性を引き出してやっただけだぜ? その後の行動は、ソイツ自身がしたいと思ってたことだ。てめえらが街中で会った奴らも、あの帯脇って馬鹿な男も、だ。まぁ、もっともあいつは蛇としての素が弱かったから、せっかく憑けてやった大蛇の霊力を無駄にしやがったがなぁ」
「やっぱり、お前の仕業だったのか!」
今度は霧島が怒りの表情で火怒呂を睨みつける。
「そのせいで、さやかちゃんは……帯脇だって、お前さえいなければきっとあんなことには……!」
「ククククク……全ては本能の赴くまま、さ。どうだ、美しいとは思わねぇか?」
火怒呂の身体から紅い《陰氣》が立ちのぼる。それに呼応したかのように、動物霊達も騒ぎ始めた。
「それに、この世界は、もうお終いだ。生き残りたけりゃ、獣の性を取り戻すしかねぇのさ。やがて来る、混沌の御世。そして、その王は――この、俺だっ!」
「あんさん、そないなこと誰に吹き込まれたんや?」
鋭い視線を火怒呂に向ける劉。いや、その視線は彼ではなく、もっと遠くを見据えているようでもあった。
「なんだと?」
「そいつはどこや……今、どこにおるんやっ!? ――白状せんかいっ!」
劉の《氣》が膨れ上がっていく。しかし、公園で見せた神聖な輝きはない。ふつうの陽の《氣》――しかも揺らいでいて、いつ《陰氣》に変わってもおかしくないほどだった。
(悲しみと、荒々しい怒り……いや、殺意といってもいい。火怒呂じゃない、奴を操っている誰かに向けられているもの?)
劉から感じられる負の感情に、龍麻は顔を顰める。ふと隣を見ると、葵も悲しげに劉を見ていた。
「くっ、この世界の王になるのはこの俺だっ! 誰にも邪魔はさせねぇっ!」
劉の《氣》に気圧されて、火怒呂は後ろへと下がる。周囲にいた人々が、こちらへと動き始めた。
「逃がすかいっ!」
「待て、劉っ! ……やむを得んな、俺達も行くぞっ!」
一人突出した劉に引きずられる形で、龍麻達は戦闘に突入した。