桜ヶ丘中央病院――診察室。
「右手の親指以外の骨折及び、右腕の大火傷。左前腕の複雑骨折、それに伴う裂傷……」
 桜ヶ丘のヌシが、カルテを片手に怪我を挙げていく。その正面には龍麻が座っていた。左腕はギプス、右手は親指以外が、手袋でもしているかのように、包帯と添え木でしっかりと固められている。包帯は頭、胸にも巻かれていた。それも普通の包帯ではなく、なにやら意味不明の紋様がびっしりと刻まれている。
 その龍麻の背後では、葵達真神組四人と、紅井達大宇宙組三人が、龍麻の症状を聞いて顔を蒼くしている。
「額の裂傷……頭蓋骨は幸運なことに無傷だな。左の肋骨は三本がヒビだ。もう少し力が掛かっていれば、ぽっきりいってたね。後は両足の骨が疲労骨折寸前だ。お前さんなら普通に歩いたり走ったりは問題ないがね、技なんぞ繰り出そうものなら、壊れるよ」
 岩山の声は低い。表情は――見たくない。葵達はおろか、岩山にあまり苦手意識を持っていない龍麻ですら、視線を逸らしている。
「とりあえず、普通の病院でも治療可能なのは、以上だ」
 すう、と岩山が大きく息を吸い込む。その動作に気付いたのは、岩山の後ろに立っていた高見沢だけだった。これから起こるであろう事を予想し、目を閉じ、耳を塞ぐ。
「この……馬鹿者――っ!!」
 岩山の怒声が桜ヶ丘中に響き渡り――その大音量にやられた何人かがその場に崩れた。


「入院一ヶ月」
 岩山の出した結論はそれだった。普通に回復を待っていたのでは、そんな短期間で治るものではない。桜ヶ丘だからこそである。
「火傷はきれいさっぱり消えるだろうが、骨折の方はそう簡単に治りはしないよ。まあ、休養だと思って一ヶ月は大人しくしてるんだね」
「お断りします。そんな余裕はありません」
 即座に龍麻が返答した。岩山の額に青筋が浮かぶ。龍麻の態度に冷や汗を流す京一達。
「入院なんてしてたら、授業についていけなくなります。これでも受験生なんで、通院で勘弁して下さい」
「おい、ひーちゃん。勉強と身体とどっちが大事なんだ?」
「身体は治しようがあるけど、勉強の方は今からこつこつやってないと、一生の問題だから。それに、普通に動くには支障ないし」
 表情を歪める京一に、ほら、と龍麻は右腕を回してみせる。
「ってことで、入院はできません」
「……まったく、運び込まれてくるたびに死にかけてる人間が何を言ってるんだい」
 溜息をつき、岩山はカルテを机に放り出す。
「まあいい。自分の身体だ、自分で面倒見るんだね。それじゃあ、緋勇にはもう少し話がある。お前達は外に出ておれ」
「何だよセンセー。別にいいじゃねぇか」
「わしに可愛がってもらいたいなら話は別だが……ひひ、ひひひ……」
「「分かりました、すぐに出ます」」
 不気味な笑みを浮かべる岩山を見て、京一は前言を撤回し、醍醐と口を揃えて即座に答えると診察室を出て行った。戸惑いつつも、葵達もその後に続き、退室する。
「さて、と……」
 高見沢を含めた全てが外へ出たのを確認して、岩山は龍麻に向き直る。
「そろそろ本音を語ってもらおうか、緋勇や」
「何の事でしょう?」
「とぼけるんじゃないよ。勉強のためだなどと心にもない事を。お前さんならノートを借りるなりすればすぐに取り戻せるだろうに」
 やや強い口調で、岩山はそう指摘した。
「一体、何を焦っておる。何故そうも無茶ばかりする? 並の人間ではないお前達魔人――その中でもお前さんの回復力は確かにずば抜けて高い。それでも限度ってものがあるんだよ。わしや美里、高見沢がいなければ、今頃お前は――」
 葵達がいなければ、桜ヶ丘がなければ、死んでいてもおかしくはないということだ。それ程に龍麻の怪我は酷かった。
「治癒役がいるからって、無茶してるんじゃないだろうね?」
「違いますよ。今回は……ああするしかなかった。だからです」
 苦笑しつつ、龍麻はそう答える。あの時点で最大の攻撃力を持っていたのは龍麻であり、確実に九角を斃すには他に方法がなかった、それは事実だ。
「お前さんがそこまで痛めつけられた相手だ。その通りなんだろうさ。だが、それだけではなかろう?」
 なおも追求を緩めない岩山。こちらを見る目は鋭く、これ以上の言い訳は通用しそうにない。
 そう、岩山の言っていることは間違っていない。龍麻の言ったことは理由の一つではあっても、その全てではなかったのだから。
「……怖いんですよ」
 しばしの沈黙の後、ぽつり、と龍麻が呟いた。


 ロビーで龍麻を待つ京一達。夜という時間、照明が控えめになっている「病院のロビー」という場所であることとは関係なく空気が重い。直接戦闘に加わった真神組も、為す術なく傍観するしかなかった大宇宙組も、その表情は沈んでいた。
 診察室を後にしてまだ数分だが、もう何時間もここにいるような錯覚に陥る。
「一体、ひーちゃんだけの話って何なんだろうな……」
 ソファに寄り掛かり、天井を見上げたままで京一。とは言え、その口調からはそれを気にしている様子はない。
 龍麻のことを心配していないわけではないが、京一の頭の中は別のことで占められていたのだ。
「何か危険な症状でもあったのかしら……」
「それはないだろう。外傷なら先生達の《力》で治癒できているし、それ以外に何かあるのなら、あの先生のことだ。縛り付けてでも龍麻を入院させているさ」
「そうだよ、葵。きっと、今まで無茶してきた分のお説教だって」
 来るたびに大怪我をしていれば、文句の一つも言いたくなるよ、と笑う小蒔だが、その声はすぐに小さくなり、笑みも崩れた。場の空気が、一層重たくなる。
「……そういう時ってよ、全部ひーちゃんのおかげで助かってるんだよな……」
「……ああ、そうだな……」
 今晩の九角戦。そしてかつての等々力不動での戦い。そのどちらの勝利も龍麻の《力》によるところが大きい。自分達の《力》も全く及ばなかったわけではないが、どうしても比較してしまうのだ。何より、今回の戦闘で龍麻の《力》が一段と跳ね上がったことによって、方陣技などの連携すらとれなくなった。
 このままでは、一緒に戦うなど無理――それが、今の葵達の共通した認識だったのだ。
「俺達、どうすればいいんだろうな……」
「どうすれば、って……今まで通り、ひーちゃんと一緒に戦うに決まってるじゃないか」
「そうじゃねぇよ……それは当然だろ。俺が言いたいのはそうじゃねぇ……」
 何を今更といった小蒔に、京一は表情を歪める。そう、問題はそうじゃない。
「だったら訊くがよ、小蒔。ひーちゃんが本気になった時に、今の俺達に何ができる? ひーちゃんが本気を出さなきゃならない敵が現れた時、俺達にできることってあるのか?」
「それは――っ!」
 言いかけて、小蒔は口をつぐむ。今日の戦闘で、自分に何ができたのか――最後の最後で九角に一矢報いただけだ。その他の攻撃は、ダメージと呼ぶには小さなものばかり。
「そういうことだよ。今までのひーちゃんとなら問題ねぇ。でもよ、全力を出したひーちゃんには、今の俺達じゃついていけない。足手纏いになっちまう。もちろんこのままで済ませるつもりはねぇけどよ」
「新たな敵の事はまだ分からないし、今の俺達にできるのは事件に備える事だけだ。修練する時間の余裕があればいいがな……」
 そこまで言ってふと気配を感じ、醍醐はそちらを見た。龍麻が一人で、こちらへ歩いてくるのが見える。どうやら話は終わったようだ。
「よう、龍麻。話はどうだった?」
「こってり絞られてきたよ。今度こんなことがあったら、強制入院だって」
 苦笑し、龍麻は肩をすくめる。その態度に、幾分周囲の雰囲気が和らいだ。
「で、そっちは何を話してたの?」
「これからどうしていけばいいのか、それを相談してたの」
 暗い雰囲気を払拭するように笑みを作り、葵が答える。
「今のうちに今後の対応を考えておこうと思って。できる事は限られているけど、早いほうがいいわ」
「そうだね。とりあえず、今の僕達にできるのは、敵の出方を窺う事と、戦力の底上げだね。当面は訓練三昧になるけど、後は翡翠の店で装備を増強しよう。こっちは僕から翡翠に話をつける。短い時間だったけど、平和はおあずけだね……」
 一同を見回し、龍麻は京一で視線を止める。包帯で膨れあがった右手を制服のポケットに突っ込み、親指で器用に鍵のリングを引っかけて取り出すと
「それと京一、旧校舎の鍵を預ける」
「旧校舎の鍵……って、お前……!」
「僕はしばらくは潜れない。でも、これは必要になる」
 今まで、旧校舎に入る時は、必ず龍麻がいた。鍵を持っているのが龍麻であったし、鍵の貸し出しそのものを龍麻が許可しなかったからでもある。そのおかげで、いつも無理のない範囲で修練が可能だったのだが、先の龍麻の発言は、下手をすれば修練中に命を落とす可能性も出てくるということだった。事実、戦力を過信して深い階層へ潜り、危ういところを龍麻に助けられた事があった。
「どこまで潜ろうと皆の自由。自分達の戦力を見極めて、無理をしないように。その辺はしっかりできるだろうから心配はしてないけど」
 今まで保護者同伴だったのが、そうではなくなる。とりあえずは自分達を信じてくれている、そういうことだろうか。
「いいのかよ?」
「言ったよ、僕は潜れないから、って。僕が回復するまでの時間、大人しくしてろって言っても聞かないでしょ?」
「分かった。遠慮無く使わせてもらうぜ」
 鍵を受け取り、京一はそれをポケットへしまう。
「ただ、事前、もしくは事後に、人数とどこまで潜ったかを報告してもらう。条件はそれだけだから」
 京一達は知らない事だが、これは旧校舎へ潜り始めた頃から――龍麻が犬神から鍵を預かった時からの約束事でもある。龍麻が不在だからといってやめるわけにもいかない。
「以上かな。後は仲間への連絡だけど――」
「あ、ボク雛乃に話があったから、そっちは伝えておくよ」
「俺も、明日は紫暮に用があるからな。伝えておこう」
 小蒔と醍醐がそれぞれ申し出る。
「頼むよ。後は僕がやる。舞子、いろいろありがとう。院長先生には話をつけておいたから、余裕があれば舞子も参加して」
「うん、分かった〜。お大事にね〜」
 とりあえず、その場にいた高見沢には伝えておくことにする。やや大袈裟に高見沢は頷いて見せた。
「それじゃ、今日はこれで解散しようか」
「緋勇!」
 病院を後にしようとした龍麻達だったが、それを呼び止める者がいた。今までロビーにはいたが、会話には全く加わっていなかった紅井達だ。
 立ち止まり、龍麻は紅井達の方を向く。見た感じ、《陰気》による影響は見られない。あればあったで岩山に「可愛がられる」のだろうが。どちらの意味でも運がいいといえる。
「今日はすまなかったっ!」
 勢いよく頭を下げる紅井。黒崎と本郷もそれに倣う。一瞬、何を言っているのか分からず龍麻は眉をひそめる。京一達を見ると、その視線は龍麻の左腕に注がれていた。それでようやく何を謝っているのかに気付く。
「ああ、腕のこと? 別に気にする事はないよ。治るし」
「でもよ、俺っちのせいで怪我したのは事実だし……それに、そのせいでしばらくは何もできないんだろ?」
「怪我をしてなくても、僕にできる事は少ないんだ。そう影響があるわけじゃない」
 今の龍麻に旧校舎で戦うメリットはない。戦闘経験はともかく、今の自分にとって重要なのは自分の《力》を制御することだ。戦う事ではない。感覚を掴むだけなら自宅の道場でもできるのだ。
「そういうことだから、気にしなくてもいいよ。それじゃ」
「待ってくれ!」
 背を向けようとした龍麻を、なおも呼び止め、そして
「頼みがあるんだ! 俺っちたちも、仲間に入れてくれっ!」
 紅井がそう言った瞬間、世界が凍った。
 今の言葉は空耳だろうか? 龍麻達はそろってそう自問する。何げに顔を見合わせ、それが幻聴でない事を察すると
「お、お前ら何考えてるんだっ!?」
「そうだよっ! キミ達、正気っ!?」
 京一と小蒔が大声を上げた。葵と醍醐は何と言っていいのか迷っているような表情を浮かべ、高見沢はどういう意味なのか分かっていないのかきょとんとしている。龍麻は――無表情。
「今日一日で散々な目に遭っただろうが!」
「下級の鬼に身動き一つできなくなってたんだよっ!? これからの闘い、こんなものじゃ済まないかも知れないのに……下手したら死んじゃうんだよっ!?」
 今日の出来事は、非日常の世界での出来事。望んで足を踏み入れるような世界ではないし、そこにいるというのがどういうことなのか、彼らは今日、身をもって知ったはずだ。
「お前達、自分の言っている事が分かっているのか?」
 そう問う醍醐の口調も呆れ気味だった。
「俺達の仲間になるということは、今日の鬼みたいなのを相手にするということだ。普通の人間にはとてもじゃないが……」
「でも、オレたちにもあるんだろう? その……《力》ってやつが」
「だったら、わたしたちにも戦えるって事。そうでしょう?」
 黒崎、そして本郷の両名も退く気はないようだ。
 大宇宙組の三名は、確かに《力》を持っている。ただし、実戦で使えるとか言う以前の問題だ。今のこの三人なら、下手をすれば旧校舎の最上階でも死ねる。
 決意は固いらしく、醍醐は溜息混じりに龍麻に視線を向ける。こうなったら、指揮官自らに止めてもらうしか手はない。黙って頷くと、龍麻は一歩前に出る。
(でも、どうしたものかな)
 選択肢はいくつかあるが、加えるにせよ断るにせよ、言い方というものがある。足手纏いだからと切り捨てるのは容易いが、単に断っても彼らは彼らで勝手に動くだろう。そうなると、確実に彼らを待つのは死だ。
「いいよ」
「「ひーちゃんっ!?」」
 少しの間をおいて発せられた言葉に目を見開いて、こちらに詰め寄ってきたのは京一と小蒔の両名。それを気にせず龍麻は続ける。
「《力》のない者を加えるつもりはないから、その意味では君達は仲間になりうる。でも実戦はショーとは違う。小蒔さんが言ったように、最悪の場合、死ぬ事もある。熟練者でもそうだから、《力》がある『だけ』の君達は戦力にならない」
「そんなの特訓でどうとでもしてみせるっ! あんたたちだって、最初から強かったわけじゃないだろ!?」
「敵が化物だけだと思っているなら大間違い。同じように《力》を持っている人間が相手になる事もある」
「それは別に――」
「今日の鬼達は元は人間だった。それも鬼に変えられた人達だ。心に問題があった人間には違いないけど、その連中と戦える? 戦って斃す=殺すだとしても?」
「……」
「僕達は正義の味方じゃない。今までの闘いでも犯罪すれすれの事、法に触れることだってやってきた。それでも、君達は僕達と共に闘うと?」
 口を挟む間もない龍麻の口調に紅井達は声が出ない。端から見ているとひどく動揺しているのが分かる。
 きつい言い方だが、このくらい言わないと効果はない、そう考えた上での龍麻の発言だった。何度も言ったが自分達は正義の味方ではないのだ。
「さあ、それでも僕達と共に闘うと?」
 さらに追い打ちをかける龍麻。そして――
「決心は変わらない!」
 迷いを振り切るように、紅井が叫んだ。
「そりゃあ、あんたたちから見れば、俺っちたちは弱いんだろうさ。でも、俺っちたちは知ってしまったんだ。この東京で何が起こっているのか」
「黙って見過ごすなんて、オレたちにはできない! でもそれは、正義のためってわけじゃないんだ!」
「あなたたちに護りたいものがあるように、わたしたちにだって、護りたいものがあるの! だから――!」
 黒崎、本郷が後に続く。三人の目には強い意志が宿り、これ以上何を言っても言葉を覆しそうにない――龍麻はそう判断した。
「条件がいくつかある」
「「ひーちゃんっ!?」」
 後ろでまた、何やら京一と小蒔が騒ぎ始めた。条件付けをする、結局のところ参入を認めようというのである。とりあえずそちらは醍醐に任せて
「僕の目から見て、それなりに力量が付いたと判断するまで実戦には出さない。君達の訓練は僕が受け持つ。次に、怪しい事件の情報を耳にしたら、必ず僕に連絡すること。一度でも先走ったら、そこで縁は切る。以上」
 必要なことを言い、龍麻はそのまま入り口へと歩き出す。慌てて後を追う京一達。
「「「分かりました、司令っ!」」」
 病院を出る寸前、背後から聞こえた声は、嬉しそうだった。



「ひーちゃんのことだから断るとばっかり思ってたんだけどな」
 家路に就く途中で、小蒔が納得しかねると言った口調でそう独り言ちた。京一も同じように頷いている。
「どうして加えたりしたんだ、ひーちゃん?」
「理由はいくつかあるけど……放っておいても勝手に動きそうだったから、封じ込める意味が一つ」
「そりゃあり得るな」
 縁日での彼らの言動を見ていると、その可能性は多分にあった。別の事件で鉢合わせにでもなったら、また今日のような事が起こるかも知れない。大人しくしている保証がない限り、野放しにするわけにはいかなかった。
「でも、何より彼らもまた、護るべきものを持っているから。正義のためじゃなく、自分の護るべきもののために闘う、彼らはそう言ったから」
 もしも彼らが正義を掲げて闘うことを主張したならば、文字通り飼い殺しにするつもりだったのだ。だが彼らは言った。護るべきものがある、と。それならば自分達と同じだ。
「それに、今は弱くても将来は分からない。大化けするかも知れないし、しばらくは様子を見るよ」
「ひーちゃんがそう言うなら任せるけどよ」
「そういうわけだから、そっちはそっちで頑張ってね。僕もすぐ合流するから」
「お前はゆっくり休んでいろ。いざという時に回復していませんでしたじゃ、話にならないからな」
 どこか急いている感じの龍麻を、苦笑しつつ醍醐がなだめる。だが今までの龍麻の言動を思うと、その理由も分かる。
(指揮官の責務が枷になっているのだろうな。それに、俺達から目を離したくないから、か。俺達に何かあったら、その場にいなかった自分を悔やむだろうからな)
 特殊な事情があるとは言え、戦闘時の龍麻は仲間を気にかけすぎる。自分のことはないがしろにしても、仲間への配慮は忘れない。
(気持ちは分からなくもないが、俺達も同じ思いをしていることに気付いているのかどうか……)
 こっそりと溜息をつく醍醐だったが
「……どうしたの、みんな? 同時に溜息なんてついて……」
 龍麻の怪訝そうな声に、京一達と顔を見合わせる。それぞれ似たような表情を浮かべていることといい、先の龍麻の言葉といい、どうやら同じ事を考えていたようだった。
「いいんだよ、ひーちゃんは何も気にしなくてよ」
「そうそう。ゆっくりと傷を治すことだけ考えてればいいのっ!」
「お願いだから、無理はせずに大人しくしていてね」
「そういうことだ。でないと、俺達も安心して修練に励めないからな」
 龍麻の問いには答えず、四人はそう言って誤魔化したのだった。



 休息は終わりを告げた。
 《宿星》の輪は、再び回り始める――



 

お品書きへ戻る  次(閑話:明日への備え)へ  TOP(黄龍戦記)へ