8月某日。
「ねぇ、知ってる?」
 何の前触れもなく、小蒔はそう訊いてきた。
「知ってる、って何を?」
「そうだよ小蒔。それじゃ、分からないじゃないのさ」
 葵と藤咲は首を傾げつつ答える。
 とある喫茶店で、三人は談笑していた。最近は、こういった組み合わせも珍しくなくなっている。
「えへへ〜。それじゃ、誰も知らないんだ」
「だから何がよ?」
「ひーちゃんの、誕・生・日!」
「「誕生日?」」
 おうむ返しに問う二人に、頷きながらジュースを一口。
「そう。ひーちゃんの誕生日」
「へぇ、いつなのさ?」
「それはねぇ」
 すぐには答えず、小蒔は葵の方を見て意味ありげに笑う。
「葵も知ってる日だよ」
「私も?……あ……」
 何の事かと思ったが、思い出した。確か、転校してきた時に誰かが質問していた。その時は、面白い偶然もあるものだと思ったが――
「9月20日」
 そう、葵と同じ誕生日なのだ。
「そうなんだ。で、龍麻の誕生日がどうしたのさ?」
「だからさ、今まで色々とひーちゃんにはお世話になってるでしょ? お礼も兼ねて、プレゼントなんてしてみたらどうかなって」
 そんな提案をする小蒔。しかし、単純に賛成するのもどうかと思われた。
「でもねぇ、龍麻にそんな事したら、絶対気を遣ってお返しとか考えそうよね」
「そうかも知れないわね。この間だって、私と小蒔が調理実習で焼いたクッキーをあげた時、お返しにってケーキ焼いてくれたもの」
「あ、この間のやつ? あれ、そういう経緯だったの」
 緋勇家で食事する事が珍しくなくなっていた魔人達だが、この間食後にデザートのケーキが出てきたのは記憶に新しい。あの時は女性陣だけしかおらず『片手で数えられるほどしか作った事ないから』と言って出されたケーキは形こそイマイチだったが味は問題なかった。それを思い出す藤咲。
「感謝の気持ちでお返し貰ってたら意味ないわ。まあ、龍麻らしいけどさ」
「あ、それなら大丈夫。問題ないから」
 どうしたものかと考える前に、自信満々の小蒔の一言。
「問題ないって、どういう事、小蒔?」
「いいのいいの。とにかく! こっちで代表立てて、その人にプレゼントしてもらうんだ。他のヒトはその手伝い!」
「ま、そういう事なら代表者は葵に決定、と」
 尋ねる葵をはぐらかし、小蒔が意見を述べる。すかさず藤咲が同意し、代表を決定した。
「え、私?」
「そうだね、葵が一番かなぁ」
 一瞬考えるフリをして、小蒔は戸惑う葵を見た。
「女性陣の代表って葵だしね」
「そうそう。って事でこれは決定ね」
「もう……勝手なんだから」
 呆れたように言う葵だったが、嫌がってはいなかった。まあ、当然だろう。
「でも、何がいいかしら?」
「うーん。そうだねぇ」
「なーに、簡単な事だよ。葵、ちょっと」
 悩む二人に、藤咲はどこからともなくリボンを取り出した。赤いリボン。少なくとも彼女がそれを身につけているのは見たことがないが、そのリボンを葵の首に掛ける。
「あ、あの、藤咲さん?」
「はい、一丁あがり」
 戸惑う葵を無視してそのまま蝶々結びにし、満足そうに藤咲は頷いた。
「龍麻にあげるプレゼントなら、これが一番。後は『私をもらって』ってお願い口調で言えば完璧よ!」
 ぼん!
 葵の顔が、今までにないくらいの赤に染まった。目を見開き、金魚と化した葵をよそに、小蒔と藤咲はなおも話を続ける。
「藤咲サン、でも相手はひーちゃんだよ?」
「龍麻だって男だよ。喜ばないわけないじゃない」
「でも、ひーちゃんって人を物扱いするの嫌うし」
「そうらしいわね。ま、それとこれとは別よ」
「それでも無理だよ、きっと。ひーちゃん、我慢強いし」
「そうだけどさ、異性絡みならさすがにねぇ。あっさり弾けて獣になるんじゃない?」
「理性なくして葵を襲うひーちゃん……」
 そこで一旦会話が止まる。二人とも天井を見上げて、状況を思い浮かべ――肩をすくめ、フッと鼻で笑った。
「「想像できないね」」
 そういう結論に達したようだ。
「それじゃあ、何にすればいいかな?」
「そうね……葵は何がいいと思う?」
 再び葵の方を見る二人だったが、葵の意識は未だに戻っていなかった。



 八月某日。北区。如月骨董品店。
 如月が店の準備をしていると、龍麻がやって来た。
「やあ、龍麻。いらっしゃい」
「やあ、翡翠。ちょっと……いいかな?」
 明らかに様子が変だった。言葉のキレが悪い。何やら迷っているようだ。
(珍しいこともあるものだ)
 そんな事を考えつつ、準備を止め、部屋に通す。台所でお茶の準備をしながら尋ねる。
「で、今日はどうしたんだ? 何か用があったのだろう?」
「あ、うん。まあ用というか……」
「はっきりしないな。君ともあろう者が」
「いや……実は相談があって、さ」
 しばらく躊躇った後、ようやくぽつぽつと龍麻が言葉を吐き出す。
「あのさ、翡翠」
「ん?」
「女の子ってさ、どういうものをあげれば喜んでくれるのかな?」
 がしゃん
「熱っ……!?」
 何かが割れる音がし、続いて如月の悲鳴が聞こえた。どうやら湯飲みを落とし、注いでいたお茶が自分の足にかかったらしい。しばらく藻掻いていた如月だったが、気を取り直して再度確認を取る。
「い、今何て言った……?」
「だから、プレゼントだよ」
(ぷれぜんと……龍麻が……女の子に……?)
 如月は自分の耳を疑い
(いや、待て。龍麻だって男だ。女の子に贈り物をすることくらいあるのだろうが……)
 ルックスは申し分ない。頭だって真神では一、二を争う程らしいし、スポーツも万能だ。おまけに強い。それこそ普通の人間相手なら、かすり傷一つ負うこともないだろう。そして、真神では女生徒の人気ナンバーワン、更に他校の女子にも知れ渡っている。自分のクラスの女子の数名が龍麻の写真を持っていた(出所は真神の新聞部らしいが)のをふと思い出す。
 それなのに、浮いた話一つない。まあ、龍麻の立場を考えればそれも当然なのだが。それに、龍麻の側にいる女性と言えば、皆《力》を持つ者達ばかり――
「あ、なるほど」
 そこでようやく納得した。よくよく考えてみれば、心当たりが一人だけいる。というか、それ以外は思いつかない。
「美里さんか?」
「ど、どうして分かったの!?」
(本気で言っているのだろうか?)
 真っ赤になって慌てている龍麻を見ながら、こっそりと溜息をつく。はっきり言って、周囲から見ればバレバレだ。もっとも龍麻自身が葵に好意を抱いている事を自覚したのはつい最近らしいが。
「べ、別に深い意味があるわけじゃなくて! ただ、葵さんの誕生日が近いって聞いたから!」
「なるほどね」
 笑いを堪えながら如月。湯飲みを差し出すが、その手も震えている。目尻には涙さえ浮かんでいた。
「しかし、それでここへ来たのか? 女の子向けの物なんて、そう多くはないんだが……その気になれば、桜井さんや藤咲さんに聞いてみる方が手っ取り早かったんじゃないか?」
「まあ、そう思ったんだけどね。でもさ、そのテの話を女の子に聞くのもなんだか、ね」
 お茶をすすりながら龍麻。こういった話自体、縁がなかったのだろう。まだ顔が赤い。
「まあ、商売人としての翡翠を頼ってきたわけ。京一は行くだけ無駄だって言ってたけどね」
 その言葉に、如月の額に青筋が浮かぶ。
「ほう……」
「あの如月にそんなもの選べるわけねぇだろ、ってさ。そんな事ないって言っといたけど」
(なるほど……安定と国綱……どうやらなまくらに仕立てて欲しいようだね、蓬莱寺君)
 京一が手入れをしてくれと預けていった刀二振りを思い出しつつ、如月は心の中でフフフと笑う。もちろん客である龍麻にそんな暗い念を悟られるような事はしない。その辺りはさすが商売人。
「しかし、贈り物と言ってもね。彼女の好きなものは何だ?」
「知らない」
 しばしの沈黙。
「じゃあ、趣味とかは?」
「知らない」
 更に沈黙。
「それじゃあ、話にならないじゃないか」
「やっぱり……?」
「一応、店の物を一通り見てみるといい」
「そうする」
 湯呑みを置き、龍麻は店へと戻る。
 店内を見回すが、骨董品屋であるが故に品物の大半は骨董品だ。後は《力》絡みの品。一般向けという言葉からは程遠いものばかりである。
(女の子が欲しがる物とか、全然分からないしな。それに好みの問題もあるし。無難なところで装飾品がいいかも……)
 と指輪が置いてある所へ行ってみる。確かに何種類かあるが、全部何かしらの《力》が感じられた。しかし
「そこにあるのは今美里さんが持っている物より劣るものばかりだよ、龍麻」
 如月の指摘する通り、装備としてはランクが落ちる。別に武装強化を目的にしているわけではないので構いはしないが、そういう事を考えるとどうも贈り物には向いてない。
「いっそのこと、本人に何がいいか訊いてみるというのはどうだ?」
「うーん。それもちょっと……」
 何かないかと視線を巡らせ――ある一点で止まった。
 如月もそれに気付き、その品物を見る。そして、溜息をついた。
「龍麻、ちなみに予算は幾らくらいなんだ? 最初に言っておくが、それは――」
「別に高価な物を買う気はないんだ。ただ……」
 その品が何なのか、思い出してみる。どういった時代背景を持つ物なのか。まあ、歴史に名を残す実物そのものではないのは分かっているが、それなりに有名ではある物だった。
「ねえ翡翠。ちょっとさ、用意してもらいたい物があるんだけど」
「……なるほど。そういう事か」
 龍麻の言葉と、先程まで見ていた物から、龍麻が何をしたいのかを察する如月。が、それでは面白くない。
「で、どこを狙うんだ?」
 試すような如月の言葉に、あっさりと龍麻は次のように返した。
「そうだね。某仁徳天皇陵とかなら残ってるかな?」
 全然某になっていない。しかし如月はそれを気にした風でもなく、一本取られたとばかりに
「ふ……まさか、そうくるとはね。せいぜいどこかの博物館を挙げるかと思ったが」
「せっかく乗ってあげたのに。そこから更に飛躍させるくらいのことはしてくれないと」
「そうか。じゃあ、オリジナルを盗りに行くというのはどうだ? 真の意味でのオリジナルではないが」
「それはいいかも……って、冗談はさておいて」
 あははと笑って、龍麻は話を戻した。
「何が言いたいかは分かってるんでしょ?」 
「ああ。何を使う?」
 と如月が訊いてくる。
「メジャーなのがいいけど、その辺は任せる。どのくらい時間がかかるかは分からないけど、当日までには間に合わせるようにやってみるよ」
「分かった。すぐに手配しよう。しかし、やり方は分かるのか?」
「本を見れば何とか。それに、今は便利な物もあるし」
 再び龍麻はその品を見る。「それ」はこの店の中でも一二を争う程の高額な品だった。



 9月20日。晩。
「失敗したかも知れない……」
 寝転がって天井を眺めながら龍麻は独り言ちた。
 今日は日曜日だった。先日の宴会の後片付けが残っていたし、一人暮らし故に色々とやる事はある。とりあえず掃除洗濯は済ませ、昼過ぎに葵に電話を掛けたまでは良かったのだが、繋がらなかったのだ。携帯はもちろん家の方にも掛けてみたが誰も出なかった。
「よくよく考えてみれば、葵さんの誕生日に、家族が何もしないわけがないよね」
 家族の仲はいいはずだし、それに今回はマリィがいる。彼女のためにも家庭でのイベントというのはしておきたいだろう。
 どうしたものかとテーブルの上に置かれている小さな紙包みに目をやる。
(連絡が取れないんじゃなー)
 もちろん何度か電話を掛けたのだが、携帯の方は電源を切っているらしく、連絡は取れない。
 こうなったら月曜以降に渡すしかないのだが、問題はタイミングだ。人目のある所では渡せない。何故か騒ぎが起こるような気がする。
「呼び出すか、隙を見て渡すかしかないか」
 幸いかさばる物ではないので持ち歩いても問題ない。そう考えて、龍麻は時計を見る。いつもなら外へトレーニングに出る時間だ。
 起き上がり、着替えようとした龍麻だが、その前に携帯を探した。昼前から充電していたのだ。部屋の片隅にある充電用の卓上ホルダから携帯を取り、電源を入れる。光が灯った液晶部分に、普段は見られない表示があった。
「留守電?」
 充電時に誰かから掛かってきたのだろう。留守電サービスセンターにダイヤルしてメッセージに耳を傾ける。
 そしてメッセージが終了すると、龍麻は慌てて家を飛び出して行き――再び戻ってくるとテーブルの上の物を掴んで、今度こそ家を出て行った。



 新宿の某公園。
 九月も下旬にさしかかり、吐く息も白い。葵は一人、龍麻を待っていた。手には紙袋を提げている。
 自分の誕生日ということで、葵は昼過ぎから家族と出掛けていた。映画を観て買い物、それから夕食。家族が一人加わった事もあり、楽しい一日だった。
 それはよかったのだが、結果、この時間まで自由に動けなかった。
 家に戻って龍麻の携帯に電話を掛けてみたが、電源が切ってあるのか、それとも電波の届かない場所にいるのか繋がらなかった。直接龍麻の家に行ってもよかったのだが、携帯が繋がらなかったのだから家にはいないだろうと勝手に解釈してしまったのだ。
 時間も遅いし、明日以降に渡そうかとも考えたのだが、やはり誕生日のプレゼントである。できるなら当日に渡しておきたい。何より、後日となると人目に触れる可能性もある――図らずも龍麻と同じ事を考えていた。
 そういうわけで、メッセージだけ残してここまで来た。とは言え、もうじき二十一時を回る。一応その時間まで待っていると言っておいたが、それまでに来る保証は全くない。
(ちょっと、考えが足りなかったかしら)
 と今更ながら悔やんでいたのだが――
「葵さん――っ!」
 当人はあっさりとやって来た。随分と急いで来たらしく、龍麻にしては珍しく息を切らせている。
「ご、ごめん。遅くなった……」
「そんなに慌てなくてもよかったのに」
 呼吸を整えようとする龍麻に声をかける葵だが
「だって、約束の時間まで間がなかったし。それに伝言に気付いてから連絡しても携帯が繋がらないからさ」
 言われて、葵は自分の携帯を出す。ディスプレイは非表示。つまり電源が落ちていた。ここでようやく映画の時から切ったままだったのを思い出す。龍麻に連絡を入れたのはその直前だった。
「ご、ごめんなさい。私ったら……」
「いや。それよりこんな時間にどうしたの?」
 落ち着いたのか、龍麻が話を切り出す。メッセージには用事があるからとしか入ってなかったのだ。
「あ、その……これ……」
 やや俯きながら、葵が紙袋を差し出した。
「あの……誕生日、でしょう……?」
 龍麻の反応はなかった。
「龍麻くん?」
 訝しげに顔を上げる葵。一方龍麻は紙袋を受け取るわけでもなく、拒否するわけでもなく。ただ、何やら考えているような――
 ぽん
「そっか。今日、僕の誕生日だったっけ」
 手を叩いた後で、龍麻の口から出た一言がそれだった。自分の誕生日である事はすっかり忘れていたらしい。
「でも……それ、僕に?」
 未だに信じられないのか確認する龍麻に、葵は頷く。
「見てもいいかな?」
「ええ」
 袋を受け取り、中の物を取り出すと、それは濃紺のマフラーだった。
「日頃お世話になっている龍麻くんへ、私達から」
「ありがとう……でも、僕の誕生日なんてよく覚えてたね? それに、私『たち』って?」
 私、じゃないのだろうかと思い、訊き返すと
「えっと、覚えていたのは小蒔なの。それで、龍麻くんに今までのお礼も兼ねて何か贈ったらどうかって話になって」
「でも、これって手編みだよね? 複数の人で編んだようには見えないんだけど」
 技量が一定でない以上、複数人で編み物をするとどこかにそれが現れる。だがこれにはそれがなかった。再び訊き返すと葵は頬を染めた。
「そ、それは……みんなで編もうって話になったんだけど、小蒔も藤咲さんも高見沢さんも編み物なんて出来ないって言いだして……どんなものにするかは決めてくれたんだけど……ミサちゃんは毛糸以外の物を編み込もうとするし……」
 最後の言葉は聞かなかった事にした。
「今の話からすると、その話って織部姉妹が仲間になる前だよね。つまり、これって実質葵さんからのプレゼントって事?」
 作業をしたのが葵だけなのだから、そういう事になる。その指摘にますます葵は赤くなった。別に悪気があって言ったわけではないのだが、こういう反応をされると自分が悪い事をしたような感じになる。どうしたものかと考える龍麻であったが、自分の方の用件を思い出した。
「そ、そうだ。僕も葵さんに用があったんだ。はい、これ」
「え?」
 渡された紙包みを見て、葵は赤みの残った顔を龍麻に向けた。
「今日、葵さんの誕生日でしょ?」
「……私に?」
「うん。ちょっと趣味に走っちゃったんだけど」
 照れつつ頬を掻く龍麻から、再度包みに目を移す。それ程重い物ではない。包みを開き、中の物を手に取る。
「勾玉……?」
 それは勾玉の首飾りだった。白に近い薄緑色の勾玉が茶色の皮紐に通されている。そのまま通すと向きが変わってしまうが、どうやったのかあの独特な形が正面を向くようになっていた。その両脇には一つずつ小玉が添えられている。
「ちょっと形が変だけどね。それに小玉も二つだけだし。できるなら、管玉も一緒に作りたかったんだけど、時間が無くてね。無理のない範囲だと、これが限界だった」
「作るって……これ、龍麻くんが磨いて作ったの?」
「うん。翡翠に頼んで翡翠の原石――って何だかややこしいな……とにかく仕入れてもらってね、碧玉と一緒に加工してみた」
 趣味に走った、と言っていたが、龍麻が考古学関係に興味を持っている事は葵も知っている。しかし一つだけ腑に落ちない。
「でも、この勾玉から……弱いけど、龍麻くんの《氣》を感じるんだけど」
 龍麻にそんな事ができるなどとは聞いた事がない。それでも龍麻の事だから、まだ自分達が知らない特技を持っているような気もする。だが、それは龍麻にも予想外の事だったようだ
「うん。どういうわけか、完成したらそうなってた。別に呪具や法具を作ったわけじゃないし、今までに作った事もないんだけど……勾玉自体、魔除けとか御守りみたいなものだったらしいし、だからかな? 今度、ミサちゃんにでも訊いてみようか」
 自信なさげに解説する龍麻。
「誕生日のプレゼントにしては、ちょっと胡散臭い物になっちゃったけど」
「そんなことないわ。龍麻くんが作ってくれた物だもの……とっても嬉しい……」
「そ、そう? なら……いいんだけど……」
 そう言われると悪い気はしない。というより気恥ずかしい。まともに顔を見る事ができず、龍麻は視線を逸らした。しばらくの沈黙の後
「あ、そうだ」
 と龍麻が声を上げる。
「考えてみたら、まだ葵さんに言ってない事があった」
「え?……あ、私もそう」
 互いにプレゼントを交換したというのに、まだ、肝心の一言を言っていなかった。それに気付き、笑う二人。
 互いに顔を見合わせ、笑みを浮かべたままで、二人は心からの気持ちを込めて言葉を紡いだ。
「「誕生日、おめでとう」」



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