戦争という束縛から解放された俺達はプリベンターに所属し、諸勢力の監視や調査に参加した。
そして、日本海に面した海上と山中に存在する旧連合軍要塞が、今回の監視・調査目的で、両要塞の全貌を確認できる全寮制の学園に潜伏した。
本日、深夜零時に査察準備の小規模な爆破が、俺達の手で実行される筈であった。
ヒイロ・ユイが授業中に倒れなければ………
事の発端はほんの数時間前の事だった。
「キャー………」
馬術専用の校庭内に、女子生徒達の悲鳴が響き渡る。
馬術上級者専用にセッティングされた障害物の側で、一頭の馬が興奮し激しく暴れていた。
そんな直ぐ側に、微動だしない男子生徒が横たわっており、その場にいた生徒全員の視線が集まる。
慌てて馬を取り押さえる教員の側を、制服姿の男子生徒が横切った。
衝撃を与えぬように、そっと抱き起こし何度も呼びかける。
「ヒイロ! おい、しっかりしろ…ヒイロ」
中国語や広東語が飛び交う中、片語の日本語…誰かの声が僅かに耳に届く。
その声の主に腕を伸ばそうとすれば、全身に激痛が走り抜ける。身体を動かすどころか呻き声も上がらず、全身への激痛に加わった吐き気や目眩に意識が遠のく。
目の前が真っ暗な闇に包まれ、同時に必死に叫ぶデュオの声が闇に遮断された。
今にも泣きそうな表情で叫び続けるデュオの声が、遠い空間で響き渡る。
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