宴もたけなわ。


「帰りてえ・・・」
パーティはまだまだ終わりを見せないが
アカラナータのテンションはもはやどん底だった。

作ったばかりの焼酎のお湯割りをすすりながらアカラナータは考える。

(あー、芋だよな、やっぱり)

大して詳しくも無い、人間界の酒について心中語ってみたのには訳があった。
早い話が、現実逃避である。

「ちょっと、聞いてますか?
私はアカラナータ殿のためを思って言ってるんですよ!」
「あーもう煩えな!」

興奮してバシン、とテーブルを叩くアナンタに
アカラナータは一言吐き捨てた。

(まさかコイツに説教癖があったとは・・・)

騒ぎ疲れて隣の椅子で眠っているトライローを始めとして、
すでに半数以上が脱落しているというのに、
アナンタの勢いはまったく衰える気配が無い。

十二羅帝達の乱入のせいで暴れそこなった腹いせに、
アナンタに飲ませすぎたことを今更ながら後悔する。
ならばそもそもの元凶であるクンダリーニに責任を取らせようと
視線を巡らせて、アカラナータはうんざり、といった様子で頭を垂れた。

パーティの最初から飛ばしまくっていた彼は、
すでに部屋の隅で丸まったまま、動かなくなっていた。

「あの役立たずめ・・・」

思わず、言葉にでる。
それに対して、言葉が悪いなどとアナンタが再び説教を開始したけれど、
アカラナータはもはや聞いていなかった。


彼のストレスはもう頂点に達していた。
やり場のない怒りがふつふつとこみ上げてきて、
暴走寸前の黒のソーマが、ゆらゆらと立ち上る。

(もう知らん・・・無理矢理にでも終わらせてくれる!)

手にしたグラスを握りつぶし、アカラナータはガタリと立ち上がる。
それから大きく息を吸い、獣牙裂光弾の呪文を唱えようとした、そのときだった。


「・・・気持ち悪い」


トライローがぼそりと呟いて、のろのろと顔をあげた。
硬直しているアカラナータの目の前、
なんとか自力で立ち上がった彼女は 口を押さえてトイレに向かおうとする。
けれど、明らかに泥酔した状態で、不安定なハイヒールではそれも適わない。
おぼつかない足取りで2,3歩進んだところで、トライローはぐらりとバランスを崩した。

「おい・・・!」

前につんのめった体を受け止めたのは無意識だった。
それを目ざとく見つけた「誰か」がヒュウと口笛を吹くが、
アカラナータはとりあえず、それを無視した。
首に手を回して、だらりと力なくのし掛かってくる彼女を 無理やり持ち上げるとすれば、
彼の大嫌いなお姫様抱っこの形になってしまうのだが、
そんなことを拒否している場合ではない。

「吐くなよ、まだ吐くなよーーー!」

アカラナータはトライローを抱え上げると、
凄まじいスピードでフロアを飛び出し、そのままトイレへと駆け込んだ。



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