トイレの水の流れる音が洗面所に響く。

「うえぇ・・・」

口紅のすっかり取れてしまった口元を拭きながら
トライローがよろよろと洗面所から出てくると、
外の廊下にはこの上なく不機嫌な顔のアカラナータが待っていた。
黙って突き出されたハイヒールを受け取り、
トライローはしょんぼりと頭をたれる。

「ごめん・・・」

クリスマスソングはまだ続いている。
頭を上げる気にもなれず、両手に一つずつヒールをぶら下げたまま、
フラフラとフロアに戻ろうとすると、 肩を掴んで引き戻された。

「ちょっと、なにすんのよ」
「帰るんだよ、もう」
「えー?なんでよー」
「もう気はすんだだろうが。あと、クリスマスはもう終わったしな」

突きつけられた時計は、もうすでに2時を回っている。
しかしトライローはその手を跳ね除けた。

「いいのよ!パーティはまだ終わってないんだから」

ぐるりと向きを変え、再びフロアに向かって歩き出す。

と。

「あー!!もうわかんねえ奴だな!!!」

唐突に、アカラナータがキレた。
今度はトライローの両肩を掴み、強引に振り向かせる。

「ちょっと、痛いじゃない!!!」

つられてキレかけたトライローは
そこまで怒鳴ったところで、きょとん、とする。
アカラナータの顔が、耳まで真っ赤だったので。

「いいか、よーく聞け」

アカラナータは殆どヤケクソのように怒鳴った。

「お前をここまで連れてくるのに、オレがどうしたと思う!?
 『お姫様抱っこ』だ『お姫様抱っこ』!!!
 どの面下げてあそこに戻れるんだ、って話だよ!
 どうしても戻るっていうんならお前一人で戻れ!
 オレはもう絶対に帰るからな!!!」

そこまで一気に言ってから、
アカラナータは背中を向けてしまった。
怒りが収まらないのだろう。
ドスドスと裏口へ向かって歩いていくその周囲で
黒いオーラがスパークを起こしているのが分かる。

きょとんとしたまま、それを見つめていたトライローは、
やがて満面の笑顔になるとその背中にむけて軽く助走した。

「よーし、帰ろう、アーちゃん!」
「うわっ!」

大きく跳躍したトライローは、
後ろからアカラナータの首にぶら下がる形で落下する。

「お前、なにすんだ!」

トライローの足が床に着くまで後ろにのけぞった状態で
睨みつけるアカラナータに、トライローはニコニコと宣言した。

「おんぶして!」
「・・・あ?」
「まだ、フラフラして歩けないからさ、おんぶしてよ、おーんーぶ!」

今の跳躍は何だ、という疑問は即座に頭の隅に追いやられた。
そうしなければ帰らない、というのならそうするしかない。
あのフロアには死んでも戻りたくないのだ。
そう、あの時口笛を吹いた男、摩利支天マリーチによって、
お姫様抱っこの件が知れ渡ってしまったであろう、あのフロアには。

「・・・お前、帰ったらどうなるか・・・覚えとけよ」

アカラナータはトライローを背負うと、
他の客達に見つからないように抜け出すべく、
そのまま裏口に向かって歩き出したのだった。


おしまい。




2年越しでオチの付いた(?)クリスマスネタです。
正直ここまで長くなるとは思いませんでした。
落ち着いたらもちっときれいに整形して365題ページに引っ込める予定ですが・・・
恥ずかしくて出せなくなる前に、勢いでUPです。
update 2006/12/26


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