――と、いうわけで。

アカラナータは喧騒の中にいた。
所は馴染みの寄り合い酒場「マンジュサカ」。

金銀のモールで飾り付けられ、大音量のクリスマスソングが流れる店内に、
グラスが高々と突き上げられる。

「かーんぱーーい!!!」

それは今、まさに乾杯が行われたところであった。

―5回目の。

アカラナータはふてくされた表情で店の隅のテーブルに陣取っていた。

「…帰りてえ…」

もう何度つぶやいたかわからない。
その原因は明らかで、アカラナータの視線の先にあった。

「はいはいはい!!!それじゃー、オレのかくし芸やります!
不動明王アカラナータの真似―!」

それは、テーブルに登って高らかな笑い声を上げ始めたマリーチ、
・・・の横で手を叩いて喜んでいるトライロー。
彼女がアカラナータと一緒にいたのは、最初の30分だけだった。
あとはこの通り、騒ぎの中に入っていってしまったのだ。

「来るだけでいい、って本当にほったらかしかよ…」

別に来なくても良かったじゃん、と天井にぼやく。
それでも何とかここにとどまっているのは、同席者のおかげだった。

「まあまあ、そうおっしゃらず」

彼を宥めつつグラスにビールを注ぎ足すのは龍王アナンタ。
何度となく帰りかけたアカラナータをそのたびに説得し、引き止めてきたのだ。
あまりにしつこく阻止されたおかげで、さすがのアカラナータも
いい加減あきらめたのだろう。
反論もせず、おとなしくグラスに口をつける。

「・・・ぬるい」

ぽつり、と呟いたその向こうでは、
トライローの歓声が響いていた。

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