一方。
このドンチャン騒ぎに参加してない者が他にもいた。
店内の入り口近くに設置されたカウンター席の端に一人陣取り、
ただひたすら、店内に鋭い視線を飛ばしている。
…最も、癖のある長い前髪に遮られていて傍目にはわからないのだが。

「こりゃ、しばらく終わらないなぁ…」

早く終わって欲しいのか、欲しくないのか。
どちらとも取れるようなとぼけた調子で
その男、イルヴァーナはぽつりとつぶやいた。
片肘をついた左手にアゴを乗せ、
ふと見つめてしまうのは、彼の主人、調和神スーリヤの姿だ。

「ま、楽しそうだからいいんだけど」

トライロー達に混ざってはしゃぐ楽しそうな笑顔に目を細めるが、
こちらに近づく影を発見し、表情を戻した。

「イル〜、今、スーリヤ様みてにやけてたでしょ☆」
「にやけてない」
「またまた〜照れちゃってからに」

生中のジョッキを両手に、どかんと隣に腰掛けてきたのは霧帝メキラだ。

「はい、どうぞ☆」

カウンターの上を滑ってきたジョッキを
イルヴァーナはそっけなく押し戻した。

「いらない」
「え〜なんでー」
「あのなあ・・・一応警護中なんだからさ、オレ」

スーリヤ様の。

そう付け加えつつ視線を戻すと、そのスーリヤと目が合った。
普段の倍の早さで手を振っている彼女に軽く手をあげて答えつつ、
その後ろでにやけているクンダリーニが近寄り過ぎないよう、
軽く睨んで牽制する。

その間、メキラはニコニコと満面の笑顔のままイルヴァーナを見つめて
自分のジョッキを傾けていた。

「大丈夫!今日は『なーんにも起こらない』からさ」


能天気な台詞の微妙なイントネーション。
それに隠された意味をイルヴァーナは敏感に感じ取る。

「・・・お前、ひょっとして」
「せっかくなんだからさ、イルも一緒に楽しもうよ☆
 アスラの皆も、楽しくぱーっとやってるよ、きっと」

「・・・ああ、そうかもな」


イルヴァーナは苦笑すると前髪をかき上げ、頭をぼりぼりと掻いた。
自分に気兼ねなく今夜を楽しませるために、
裏で手を回してくれた友人の心遣いが、少々照れくさかったので。

「あ、でもこのビールは飲めないから」
「えー!?」
「いや、オレが下戸だってわかってて渡してるだろ、お前」
「・・・ちぇー」


>>next


戻る