高いところ



なんとかと煙は高いところが好き、とかいうけれど、
まあそれはおいといて。


アカラナータはとにかく高い所が好きだった。
特に、誰も来ないような所。

ふとしたことから天空界に落とされた彼が
最近気に入っているのが、
天空樹の一番テッペンにある天空殿の
これまたテッペンの屋根の上だ。

高さはもちろんだが、誰も来ないところがまた最高だった。
なにしろ、ここは調和神の部屋の真上。
そんな所によじ登ろうという奴など、
今の天空界にいるわけが無い。

・・・はずだったのだけれど。

とりあえず一人は確実にいることに
アカラナータは今日気づいた。

その部屋の主、調和神本人だ。

まあ、屋根の上に調和神がいるというのも
いかがなものかと思うのだけれど。

満月が高く上り、皆が寝静まった夜更け。
アカラナータが一人、気に入りの酒瓶を片手に月見酒をしていると、
彼女は、ペットの小ナーガに
腰の辺りから吊り下げられた状態で現れたのだった。
あえて気にしないフリをしたまま、横目で様子を窺っていると、
あちらは屋根に上がって初めてアカラナータに気づいたようで、
危うく落ちかけたりなどしている。

・・・いや、気づけよ。来る前に。

憩いの時間を邪魔されてご機嫌ナナメなアカラナータだったが、
そこは何とか耐えた。
かつて放り投げたこともある少女ではあるが、
それでも今は一応「調和神」だ。

その注意力散漫な「調和神」ことラクシュは、
恐る恐る屋根に着地し、
彼から数メートルはなれた場所に膝を抱えて座った。
アカラナータは再び眉をひくつかせたけれども、
そのまま放置して酒盛りを続けることにした。

ところが。


(なんだこの違和感は・・・)


猛烈な違和感。
少し考えてピンときた。
静か過ぎるのだ。
あのやかましい調和神と小ナーガの声をまだ聞いていない。

ちらり、と視線をむけてみると、
彼女と一匹は先ほど降り立った場所にまだ蹲っていた。
膝の上に蹲った小ナーガを撫でる少女の顔は影になっていてよく見えない。
が、

ぐすん、と鼻をすする音にアカラナータはぎょっとする。


「泣くなよ!」
「泣いてないもん!」


思わず怒鳴ると、ラクシュは怒鳴り返しながら立ち上がった。
月の光の下にあらわになった頬には涙の筋が一筋、どころではなく。
アカラナータは言い返す気力もなく、がくり、と肩を落とすとため息をついた。

なんというか・・・
台無し、である。
もはや酒盛りどころの雰囲気ではない。


(寝るか・・・)


瓶を一口あおって、立ち上がる。
部屋に帰ろうと、屋根から飛び降りようとすると。


「待って!」


ラクシュが叫んだ。
まさか引き止められるとは。
予想外の事態に、動きが止まる。


「・・・何か、用か」
「用っていうか・・・」


もごもご言っているが聞き取れない。


「用がないなら帰るぞ」


再び飛ぼうとすると、今度は腕をつかまれる。


「・・・一人にしないでよぉ・・・」


これもまた。
予想外で。


うえええええん、と泣き出して座り込んでしまったラクシュの横に
ただ立ち尽くすアカラナータであった。


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