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「・・・アタシ、調和神に向いてないのかなぁ・・・」 アカラナータはまだ、屋根の上にいた。 ラクシュは1mほど離れた位置に膝を抱えて座っている。 そう、結局、立ち去れなかったのだ。 開き直ったように胡坐をかいたアカラナータは、 高々と酒瓶をあおると、空を見上げた。 空には雲一つ無く、月が、青々と輝いている。 「シュラト、どんどん創造神らしくなっちゃってさ」 「どんどん遠くにいっちゃうの」 「アタシはぜんぜんダメで・・・おいてけぼりなの」 ラクシュは延々と喋り続けている。 最初は聞き流しておくつもりだったのだが、 放っておけばこのまま朝まで続きそうな気がして、 アカラナータはたまらず口を挟んだ。 「そんなこと、オレに言うなよ・・・」 「だってこんなこと、皆には言えないよ」 「なんで」 「だって・・・」 あたしは、調和神だから。 弱音なんか、吐いちゃダメなんだもん。 ぐすん、とラクシュが再び鼻をすする。 「まあなあ・・・」 なんだ、自覚あるんじゃねえか。 少々、感心する。 もっとも、何故自分に打ち明けるのかは不明だが。 ラクシュの脱走癖は、天空殿の中では有名だ。 調和神修行がよっぽど厳しいのか、 はたまた、ただじっとしていられないだけなのか、 などと女官達が話をしているのを良く聞いてはいたが。 (こりゃ、ここでメソメソいじけてた可能性が大だな・・・) 調和神の重責は計り知れないものがある。 それをいきなり背負わされた少女の気持ちもわからないことは無いが だからと言って、このまま修行放棄を続けられても困る。 アカラナータは小さくため息をついた。 かつては天空界を滅ぼしてやろうと破壊の限りを尽くしたのだが、 調和神の修行不足で滅びるなんて、天空界がさすがに不憫だ。 そんなことを考えていると、 ふと、過去の記憶が呼び起こされた。 そういえば、昔にもこんなことが、あった気がする。 それはかつての大戦のころ。 調和神が、スーリヤからヴィシュヌに代替わりしたころ。 「ククク・・・」 「何よー!」 突然笑い出したアカラナータに、ラクシュが抗議の声を上げる。 「いや・・・」 あの時も、満月だったか。 酒をあおって、空を向いたまま、アカラナータは続けた。 「ヴィシュヌも昔、ここで同じようなことを言っていたのを思い出してな」 「ヴィシュヌ様が!?」 「ああ、半べそかいてたな」 「嘘!」 「嘘じゃねえよ。・・・まあ、信じる信じないはお前の勝手だが」 疑い100%で見つめてくる大きな瞳に、ちらりと流し目をくれてやる。 ラクシュはううう、と唸ると抱えた膝に顔を伏せた。 とはいえ、悩んだのは、ほんの一瞬。 「信じる!」 ぱっと上げた顔は満面の笑みだ。 元々、この少女の頭はアレコレ悩むようにはできていないのだ。 「そっかー・・・ヴィシュヌ様も泣いてたんだ・・・」 先ほどまでの落ち込みようはどこへやら。 ニコニコと上機嫌に足元の小ナーガを撫で回す様子に、 アカラナータはあきれ果てるしかない。 「じゃあ、オレは帰るぞ」 「待って!」 よっこらせ、と立ち上がると、再び呼び止められた。 「・・・今度はなんだ」 いい加減にしろ、とばかりに撒き散らされる不機嫌なオーラをものともせず、 ラクシュは再びアカラナータの腕を掴んだ。 「連れて降りて!・・・ミー、寝ちゃったから・・・」 「調 子 に 乗 る な」 乱暴に振り払うと、身軽にぴょんと飛び下がり、 ぶー、と頬を膨らませる。 「えー!いいじゃない!今日だけ!」 「・・・お前なぁ・・・」 「お願い!」 両手をぱん、と顔の前で合わせるおねだりポーズ。 それもまた、どこかで見たようで眩暈がする。 気付けに酒瓶を再び煽ろうとして、中身が空っぽなのに気づき、 アカラナータはそれを力任せに遠くへと投げ捨てた。 そして、深い深いため息をつくと、天を仰ぐ。 戦意喪失。 お手上げ。 降参。 これだからまったく、調和神という奴は。 「はいはい、調和神様」 無愛想に差し出した右腕にラクシュが飛びついたのを確認してから、 アカラナータは今度こそ、屋根から飛び立ったのだった。 前々から書いてみたかったあっくん&ラクシュ。 ラクシュは良くも悪くも空気よまないので、 お姉様の次ぐらいにあっくんを振り回せそうだなーと思った次第。 ヴィシュヌ様のくだりは・・・まあ、そんなこともあったらいいなあ、という願望です(笑) update 2011/01/31 |