初詣。



朱の月1日。真夜中。

アカラナータは人間界に居た。

都会の喧騒から離れた山の中、
目の前にあるのは長い石段。
遥か向こうに厳かな門。
その開かれた扉の奥には、大きな寺院。

そして。
辺りを埋め尽くす群集。

(帰りてえ・・・)

黒い長めのダウンコートにマフラー、と
防寒装備なのにも関わらず、尚寒い。

日も変わったばかりだというのに
益々増えていく人の群れにもみくちゃにされながら、
アカラナータはぴったりと横について離れないトライローを
恨めしそうに見た。

襟元にファーのついたお気に入りの赤いコートを着た彼女は
大層ご機嫌な様子で、アカラナータの左腕を
しっかりと胸に抱き込んでいる。

(コイツ、これが目的だったんじゃねえだろな)



「初詣に行きたい!」

トライローがそう言い出したのは、ほんの数時間前。
クンダリーニが年越し蕎麦に盛られた毒にあっけなく倒れ、
実質二人きりになった時のことである。

「まあ、いいけど」

申し出を軽々しく受けたことを、
アカラナータは早くも後悔しつつあった。


「アーちゃん、ほらほらもう少しだよ!」

トライローの声に我に帰ると、
すでに石段を半分以上登ってきていた。

「アーちゃんはもう、願い事決めた?」
「は?」
「・・・だから〜」

トライローがいうには、
ここにいる人々は、願い事が適うよう、
ここに祀られている者のご利益を得に来ているのだという。

「・・・人間界の神さんに願っても仕方ねえだろ」

っていうか。

石段を登りきり、
境内のあちこちに立てられているノボリを目にして
アカラナータは卒倒しそうになる。。

―不動明王。

そう、そこは人間界有数の「不動尊」だった。


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