―決勝。

相手は、準々決勝から、もうすでに特科生だ。
もっとも、準決勝も、準々決勝も、
危なげなく突破したトライローにとって、
もはや「特科生」という言葉は飾りでしかない。

とはいえ、今回の相手は、さすがに強敵だった。
隙のない、熱い気迫のこもった鋭い眼。

180cm近くはある大きな身長と、屈強な体。
得物は槍。

彼の名は、ヤマンタカ。
トライローと同年齢でありながら、すでに特科生になっている男。
その実力から、現在空席のある、八大明王の1人ではないかという噂もある。

「お手柔らかにたのむぜ、トライロー!」
「冗談を言わないで、全力で行くわ。ヤマンタカ!」

2人の視線が、激しく火花を散らす。

…何を隠そう、ヤマンタカも、イルヴァーナに憧れて、
天空殿に上がってきたのだ。
彼としても、ここまできて、負けるわけにはいかない。

高まる緊張感。
それが最高潮に達した時。試合は開始された。

「始め!」

2人は同時に、踏み出した。

―それは、候補生同士とは思えない攻防だった。

「…へえ」

今まで退屈そうだった、イルヴァーナが、
そう、呟いて、姿勢を正すほどの。

ヤマンタカの槍が鋭い突きの連続技を見せたかと思うと、
それを全て紙一重で見切り、トライローが、彼の懐へと、一気に踏み込む。
一撃必殺の掌底が、顎を狙って繰り出されるのを
今度はヤマンタカがのけぞってかわし、槍の柄で、トライローのみぞおちを突く。
それをまたトライローが間一髪でかわし、飛び下がって、一度距離をとる。

「…やるじゃない」
「お前もな!」

2人は間合いを計りながらにらみ合った。

2人の勝負はなかなかつかなかった。
実力が均衡していて、これといった決まり手が、決まらないのだ。
だが、そのうち。
体力的に劣る、トライローの動きが鈍くなっていく。
ただでさえ、運動量の多い戦い方をしているのだ。

しかし、それが逆に、ヤマンタカの心の隙を生んだ。
トライローの動きが鈍ったのを察知し、一気に決めようと勝負に出たのだ。

「うおおおおおっ!!」

一瞬力を溜め、ヤマンタカが全身全霊の一撃を放ってくる。

しかし、それがまさに、トライローの狙っていた瞬間でもあった。
集中力を極限まで高めた彼女の目には、
ヤマンタカの一撃が、止まっているかのように映った。
全身の力を振り絞り、槍の穂を紙一重で避けると、頬に赤い筋がはしる。
次の瞬間、槍をすり抜け、彼女は、ヤマンタカの懐に飛び込んだ。

「たあっ!」

渾身の肘鉄の一撃が、ヤマンタカのみぞおちに炸裂する。
と、同時に、もう片手の掌底で、顎を打ち上げた。

「それまで!」

審判の声で、勝負は、決まった。
ヤマンタカが、ゆっくりと仰向けに昏倒する。

一瞬の静寂の後、一気に歓声が沸いた。

(やった…!)

涙が出そうな、達成感。
肩で息をしながら、トライローは、来賓席の方を見る。
当然、イルヴァーナの様子を見るつもりだったのだが。

彼はそこにはいなかった。

代わりに、メキラがスーリヤに耳うちしているのが目に入る。
何だろうか。

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