一方。
気合い溢れる試合を繰り広げるトライローを、
来賓として見に来ていたイルヴァーナが、
特別な想いで見ていたか、というと。
…そうでもなかった。

元々彼は、武道にはあまり興味はない。
専門は、術のほうなのだ。

そもそも今日だって、図書室で研究したい術があったわけで。
公務だから、仕方なく来た、という状態だ。

とはいえ、トライローが『素手』でどこまでやれるか
というのには少々興味はあった。

あの時の視察で、始終フワフワしていた少女が、一番過酷かもしれない
『素手』という条件を選んだのには、意味があるはずなのだ。

…もっとも、それが自分へのアピールのため、とは
彼は微塵ほども、思っていないのだけれども。

そんな彼を隣で見ていた霧帝メキラは、
ニヤニヤしながら、囁いてきた。

「どうなのよ、感想は。彼女がんばってるじゃない」
「うーん、まあまあ?」
「まあまあ、って…あれ、絶対イルを意識してるよ。あ、ほら、またこっち見た」
「意識するべきなのはスーリヤ様。あとヴリトラ様。俺じゃないよ」

身も蓋もない答え。
深くため息をついたメキラは、不憫な目で、
たった今、準決勝を勝ち抜いたトライローを見た。

(あの子、本当に可哀想だなぁ…報われない…)


>>next


戻る