『closed 木ようまで... 買いだしです Cafe'アルファ』
彼女の筆跡のメッセージがぶつかるように目に跳びこんできて、私はしばし扉の前で立ちつくしてしまった。
「・・・今日は閉めているのか」
メッセージを書いたボードをうらめしそうに見つめた私は、かすかなため息をついた。
Cafe' Alphaに着くまで、史跡を探し、バイクをひねくれた方向に行ったり来たりさせていた。結局見つからず、休憩地としてここまで来て、この地でも肩透かしを食らった格好になった。
風を切ったバイクからCafe' Alphaが見えてきた時、少しどきどきしていた。せっかく半年ぶりに訪れたのに、今日しか来れる日がなかったのに。史跡が見つからなかったことより、彼女に会えなかったことの方が私には残念だった。
見つめいてもやるせないだけなので、仕方なく扉を背もたれにして腰かけた。尻に固い感触が伝わると同時に、少しのけだるさもかぶってきた。さっきまで乗っていたバイクがまだ暑そうだった。友達から借りた古いものだが、どんな機種かは知らない。
空虚な感覚で、何となく道を眺めた。さっきまで走っていた道が遠くなった。ここに座っていたらいたら、しばらくして彼女が現れるのではないかというあきらめ色の期待を感じたが、すぐ流れた。
彼女こと、初瀬野アルファはこのCafe' Alphaという喫茶店の経営者・・・なのだろう。経営者というより、看板娘なのだが、彼女一人できりもみしている。
私は半年ほど前の寒い日にこの店の運の良い客になった。あの時もバイクで、・・・・・
「いらっしゃいませ」
疑いのない笑みの彼女が、昔からの友達を迎えるように私を歓迎した。私はこんな場所でよもやこんな魅力的な女性に遭遇したことに、困惑とうれしさがまじりあった感覚を覚えた。
適当に席に着き、コーヒーを注文した。いそいそとつくりながら、彼女は話をしはじめた。持ってくると、すぐ真正面に座って引き続き楽しそうに話した。
「どちらから」「寒くなかったですか」「いつも店のコーヒーを自分で飲んでます」
少し記憶が交錯したが、彼女の真正面の顔は焼きついたように印象深かった。瞳の紫色が深く、吸い込まれそうになった。乳白色の柔らかな肌もとてもきれいだった。
「大学の研究活動でこちらの史跡などを見てまわっていて、またその土地の人から伝説、伝承、言い伝えなども聞き取りしています」
私はやや固く応えていた。しかし、だんだんと体も心も雪がとけるようにゆるやかになっていった。私から出した話題には、鳥のみさごはツガイであることが常だから、ミサゴには男性の型もいたのでは、と言ったり、蓬莱伝説という言い伝えがあり、秦の時代に不老不死の薬を求めて日本にきた人がいることなど、とりとめもなく応えた。
コーヒーをちびりちびり。
「おかわりありますよ」
彼女はほとんどなくなっているカップを見ると、うれしそうに伝えた。
「それじゃ、もう一杯いただきます」
アルファさんはすぐにポットを持ってきてそそいだ。エプロン姿を背景に、コポコポと音がしている。エプロンに落書きされたような魚の絵が、そそいだカップに妙になじんだ。
「そうだ! おもしろいものを発見したことがあるんですけど。西のとある国で、山の中を歩いたとき、偶然タイムカプセルを見つけたんです」
口が勝手に動いてしゃべった。
「タイムカプセル?」
「誰かが、数十年後に自分達の宝物を掘り出すために埋めたものですよ。土砂が崩れたところがあって、近づいてみると、何か小さな金属の箱のようなものがあって、何だろうと思って見たんです。土砂を取り除いて、引っぱり出したら手の持てるほどの大きさの銀色の箱でした。あちこち穴があいたりへこんだりしていて、最初は埋まった金庫かと勘違いしました。
でも、金庫にしては錠らしきものがなくておかしいと思い、ふたと思われるところを開けようとしたんです。でも、傷みがひどくなかなか開かなくて、作業用具を使ってやっと開けると・・・」
「何が出たんですか?」
「ほとんど土ばっかりだったんです」
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