考察1 星也の生き様について
緒方星也さんの過去については良くわからないことが多く、私も
いろいろと想像し、憶測ばかり考えてしまいます。絵の修行のため
ヨーロッパに行ったようですが、具体的にはどの国に行き、どれぐ
らいの期間滞在し、どういった勉強をしたのか、旅費はどうしたの
か、など勝手に想像するしかありません。また、カリーノさんとのラ
ブロマンスがどんなものであったかわかりませんが、おそらく激し
い恋愛だったと想像してます。
それで考えたのですが、鴎外の小説に「舞姫」というものがあり、
もしかしたら星也さんは読んだかもしれません。苦渋の末恋人を
捨てて日本に帰る主人公がいましたが、まさか自分がそれと似た
ような境遇になるとは予想しなかっただろうと思います。そして、小
説の主人公は帰ってどうしたかわかりませんが、これは鴎外の分
身ですから、鴎外を見るとその後がわかります。星也さんとは違
い出世に邁進していきます(矛盾を抱えながら)。
星也さんは一流の画家をあきらめて、ほそぼそと絵描きをする
生活を送るようになりました。画家のゴーガンは絵の道を究める
ため、愛する家族を捨てましたが、星也さんは愛するカリーノ、織
姫のことを想い、自らの才能を押し殺すとことで贖罪を行ったもの
と思います。
絵の道を究めるのは苦しいものでしょうが、その道を自ら閉ざす
ということもつらいものと思います。鴎外などは、自分の持つ苦悩、
矛盾を小説の形で世に問い、昇華させていますが、星也さんは街
角の絵描きで十分に昇華させることはなかったように思います。
苦悩の中、カリーノ、織姫の幸せを祈ることだけが、生きるよりど
ころだったと察します。
それが、今は織姫と親子の絆を取り戻すこともでき、愛するカリ
ーノと再会できたことはとても喜ばしいことです。ダンテが神曲の
中で最愛の人と出会い、天上界へといざなわれたように、カリーノ
という天使に彼は幸福にいざなわれていくように見えます。
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