歯周病

歯周病とは?
歯を支えている顎の骨が溶ける病気です。歯は、歯ぐきから出ている歯冠部と歯ぐきの中にある歯根部があります。この歯根は歯冠2倍位の長さがあり、顎の骨(歯槽骨)に埋まっています。この歯を支える顎の骨が歯周病によって溶けて無くなり、最後には歯が「ぐらぐら」して歯を失う病気を歯周病と呼んでいます。


なぜ、歯を支えている骨が溶けるのでしょうか?

☆歯肉炎から
歯と歯ぐきの堺には「歯周ポケット」といわれる溝があります。その中に住み着いた細菌(※1)が増殖すると、細菌の出す毒素によって歯ぐきが炎症(※2)を起こします。歯ぐきは炎症を起こすと腫れて「歯周ポケット」が深くなります。その結果、歯周病菌はたくさん住めるようになり増殖します。また、「歯周ポケット」が深くなることは歯周病菌を取り除くのが難しくなります。その上、歯ぐきが炎症を起こすと痛みや出血があるので、歯磨きを避けるようになり、「歯周ポケット」の中の細菌は増え続けますます。このような悪循環を繰り返し、歯ぐきの炎症が慢性化していきます。

☆そして歯周病へ
体は、「歯周ポケット」の中で細菌が毒素を出し増加していくことを、何とか食い止めようとして、免疫が戦い続けます。しかし、次第に細菌の増加や免疫力の低下(※3)により、炎症が強くなると、生体は「歯周ポケット」の奥にある歯槽骨を自ら溶かして後退します。(※4)この結果、より深い「歯周ポケット」になり、細菌が増える環境になります。このような悪循環を繰り返し歯周病が進行していきます。
※1 歯周病はGingibalis、 Actinomyces、 Intermediaなどの歯周病菌によって起こります
※2 炎症は外敵(歯周病菌、毒素)から体を守るための防衛反応です。外敵が居る所に血液を集めて防衛するため歯茎が赤く腫れるのです。
※3 体の病気、疲れ、ストレス、加齢によって免疫力は低下します
※4 炎症が強くなると自ら骨を溶かす細胞(破骨細胞)が現れて歯の周りの骨(歯槽骨)を溶かします。

<ミニ知識>
忙しい時、体調が悪い時、肩こりがひどい時、ストレスが溜まっている時などに、歯ぐきが腫れる場合があります。このことは、もともと歯周病で歯ぐきに炎症があったにもかかわらず。日頃は体の抵抗力で抑制できていた状態が、この免疫力が低下したために  急激に細菌が増殖して、歯ぐきが急性の炎症を起こして腫る状態です。


歯周病はどんな症状があるのですか?
初期の歯周病は歯ぐきからの出血くらいで、症状が殆どない病気です。中期から後期の歯周病では、歯ぐきが後退してきた、口臭がある、歯がしみる、歯が動いてきた、歯がぐらぐらする、咬みにくくなった、等の症状が出てきます。そのため、気づいた時には手遅れの場合もあります。また、歯周病はゆっくり進行する(※5)ために日々の変化は少なく、気付かない場合がほとんどです。
※5 急性の歯周病を除いて10〜40年かけて進行する場合が殆どです。


歯周病を早く見つけるにはどうしたら良いのでしょうか?
検査を行う必要があります。歯ぐきの中の病気なので、外部からの診査では正確な診断はできません。様々な検査を行う必要があります。
<検査方法>
(1)
ポケット診査
歯と歯ぐきの間にプローべ(※6)を入れて歯周ポケットの深さを測ります。健康な状態だと1〜3mmです。理想的には、1本の歯に対して6箇所ずつ(※7)計測する方がより正確です。
※6 歯周病の検査器具で、先に深さを測るためのメモリが付いた細い棒状のものです。
※7 歯の表側3と歯の裏側3の計6箇所を計測します。28本の歯では162箇所の計測になります。

(2)出血度、排膿
ポケット診査を行ったときに歯ぐきから血や膿が出た箇所を調べ、歯ぐきの炎症の状態を調べます。計測箇所はポケットと同じです。
(3)レントゲン診査
デンタルフィルム(※8)によるレントゲン撮影を行うことによって歯槽骨(歯を支える骨)の状態を知ることができます。レントゲン写真は2次元ですがポケット診査と組み合わせることにより3次元的な診断を行うことができます。
※8 パノラマ(お口全体が写る大きなレントゲン写真)では、歯槽骨の正確な診断はできません。3〜4本づつ写る小さなレントゲン写真(デンタルフィルム)で撮影する必要があります。
(4)咬合診査
歯周病は咬み合わせや歯並びが悪いことによって、悪化する場合があります。お口全体の模型を診査することによって、歯並びの状態、清掃性が悪い所、咬み合わせに問題がある所などを診断することができます。


歯周病は治るのですか?
残念ながら現在の歯周病の治療では、失った歯槽骨を確実に再生することは難しいと私は考えています。そのため、歯周病の治療は悪くなるのを止めるか、現状より悪くしにくくするのが目標です。最新の治療方法では骨を再生できることが可能(※9)ですが、高度な技術と良い条件が整わない限りは最良の治療方法とは言えません。私の過去の治療例として、骨が再生した場合もありますが、すべての歯周病に確実な再生を期待することはできません。あくまで、結果として骨が再生したと受けとめる方が安全だと考えたほうが良いと思っています。
※9 エムドゲイン、GBR、PRPなどの骨を再生する薬品や技術はありますし、成功例も多く認められており私も使用します。しかしながら、現時点での一般臨床で確実な再生を期待するのは、少し難しいと私は考えています。

歯周病と喫煙
喫煙により歯肉の血液循環機能に障害を引き起こします。これにより、歯肉の免疫機能低下させるために、歯周病への抵抗力を低下させてしまいます。また、歯周病の治療を行っても治りが悪いため治療効果が低くなります。

歯周病と全身疾患
歯周病は歯周ポケット内での細菌と免疫力との戦いです。そのため生体の免疫力を低下させる全身の病気や唾液量が少なくなる(※10)病気は、歯周病を進行させる要因となります。その中でも糖尿病は免疫力と唾液量を減少させるので、歯周病を治療するには大きな問題になります。
※10 唾液中には免疫物質が多く含まれているため、唾液量が減少すると免疫は低下します。