STDの基礎知識


 

1.はじめに


 世の中には性に関する情報が氾濫し、人々の性に対する考え方も開放的になってきました。
 しかし性行為に伴う危険性、STD(性感染症)に関する正しい知識は、十分に普及しているとはいえない
 のが現状です。
 STDは特別な疾患ではなく、誰もがかかり得る危険性をもった感染症です。
 たった一度のゆきずりの性行為であったとしても、人生を大きく変えてしまうことさえ、あり得るのです。
 自分のために、そしてかけがえのないパートナーのために、STDについて正しい知識をもちましょう。

2.STDってどんな病気?


 ◎STD(Sexually Transmitted Disease)
   STD(性感染症)とは、性行為で感染する疾患のことです。この「性行為」には、通常の膣性行のほか
   口腔性行(オーラルセックス、フェラチオ)、肛門性交(アナルセックス)なども含まれます。
   具体的な疾患としては、性器クラジミア感染症、淋病、梅毒、性器ヘルペス、尖形コンジローム、
   トリコモナス症、AIDSなどがあります。

 ◎「性病」とどう違うの?
   以前は、性病予防法で指定されていた梅毒、淋病、軟性下かん、そけいリンパ肉芽腫症の4つの疾患
   のことを「性病」と呼んでいました。しかし実際にはそれ以外の性感染症が多いことなどから、1999年
   感染症新法の施行に伴い、じゅうらいの性病予防法は廃止されました。このため今日では、より広い
   意味でSTDという言葉が用いられています。

3.主なSTD(女性の場合)


 女性では、性器クラミジア感染症が最も多く、ついで性器ヘルペス、トリコモナス症、淋病様疾患、尖形
 コンジロームなどがみられます。とくに最近では、性器クラミジア感染症が増加しており注意が必要です
 性器ヘルペスはわずかに増加、淋病様疾患、尖形コンジロームなどは横ばいで推移しています。
 女性STD患者には性風俗関係者の割合が多いものの、OL、主婦、学生など性風俗関係者以外のSTD
 患者も増加しており、とくに25歳未満の若年層での増加が懸念されます。

1)性器クラジミア感染症
    病原体:クラミジア、トラコマチス(細菌の一種)

 ☆潜伏期間  1〜3週間(自覚症状がある場合)
 ☆症状・特徴
    70%以上の人は無症状で、感染したことに気付かずに放置されがちですが、子宮頸管炎(子宮の
    入口の炎症)を起こします。感染が卵管や卵巣、腹膜などに及ぶと軽い下腹部痛、性交痛などが
    みられます。これらは不妊症や子宮外妊娠の原因になっることがあります。まれに感染が上腹部
    まで広がり、激しい腹痛を起こして救急外来へ搬送されることがあります。
 ☆治療
    抗菌剤(テトラサイクリン系、マクロライド系、ニューキノロン系など)で治療します。

 ◎ひとくちメモ
    男女共に患者の最も多いSTDです。女性は無症状の場合が多いので注意が必要です
    又最近ではオーラルセックスの増加により、のど(咽頭)への感染も増えています。


2)淋病
    病原体:淋菌(細菌の一種)

  ☆潜伏期間  男性と比べてはっきりしません(男性:3〜10日)
  ☆症状・特徴
    子宮頸管炎が多く、黄色い膿のようなおりものが出たりしますが、無症状の事が少なくありません。
    このため感染に気付かず放置されがちです。
    感染が拡大して骨盤内に炎症を起こすと、半数以上に発熱、下腹部痛がみられます。又治療せずに
    放置しておくと不妊症の原因になることがあります。
    なお妊婦が感染していると、産道感染により新生児が結膜炎を起こすことがあります。
    又最近ではクラジミアと同様にオーラルセックスによるのど(咽頭)への感染も増えています。
  ☆治療
    抗菌剤(セフェム系、ペニシリン系、スペクチノマイシンなど)で治療します。

  ◎ひとくちメモ
    STDの中では頻度の高い疾患の1つです。女性は無症状のことが少なくないので注意が必要です
    治療後に淋菌が消えたどうかの確認が必要です。


3)梅毒
    病原体:梅毒ポレトネーマ(細菌の一種)

  ☆症状・特徴(次のように4つの期に分けられます)
    第1期(感染後3カ月まで)
     感染後約3週間すると病原体の侵入部位に赤く固いはれ物が出来、やがて潰瘍となります。
     痛みはなく約2〜3週間で消えますが、治ったわけではなく第2期へ移行します。
    第2期(感染後3カ月〜3年)
     病原体が全身に広がり、全身に赤みや発疹があらわれます。このほか脱毛など多彩な症状が現
     れますが、自然に消失したり再発を繰り返します。
    第3期(感染後3年〜10年)
     ゴム腫(ゴム様の固さの皮膚病変、小豆大から20cmを超えるものまである)などの皮膚症状が現
     れあらゆる臓器に病変を形成する可能性がありますが、現在ではまれです。
    第4期(感染後10年以降)
     心臓や血管、脳などに障害を起こしますが、現在ではまれです。

    梅毒の女性患者が出産すると、産まれた子供に感染していることがあります。
    これを先天梅毒といいますが、現在でほとんどみられません。

  ☆治療
    抗菌剤(ペニシリン系など)で治療します。

  ◎ひとくちメモ
     昔はSTDの代表的存在でしたが、最近では少なくなっています。病期が進むと重い障害もみられ
     ますが、第3期、第4期の梅毒は現在ではまれです。早期に発見して、治療すれば、完全に治す事
     が出来ます。

4)性器ヘルペス
    病原体:単純ヘルペスウイルス(HSV)1型または2型

  ☆潜伏期間  2〜10日
  ☆症状・特徴
    初感染では、外陰部に多発性の浅い潰瘍や水ぶくれができ、強い痛み、発熱を伴います。再発は
    心身の疲労、性行為、月経などが誘因となり、外陰部、臀部、肛門周囲などに潰瘍がくり返し
    生じます。又母子感染することもあります。
  ☆治療
    抗ヘルペスウイルス剤の内服や外用(軟膏)で治療します。

  ◎ひとくちメモ
    ウイルスによるSTD最も多い疾患です。オーラルセックスにより口唇から性器へ感染することも
    あります。外陰部の皮膚病変は痛みが強く、また再発しやすいのですが、抗ヘルペスウイルス剤が
    有効です。

5)尖形コンジローム
    病原体:ヒトパピローマウイルス(HPV)

  ☆潜伏期間  数週間〜数ヶ月
  ☆症状・特徴
    陰茎や外陰部に淡紅色から薄茶色のイボ(潰瘍)が単発または多発し、カリフラワー状になることも
    あります。男性は陰茎、亀頭、包皮、陰のうに、女性は陰唇、膣に、また男女の肛門周囲、尿道など
    に多発します。かゆみ、性交時の痛みがみられることがあります。母子感染の危険性もあり、出産前
    の治療が必要となります。
    通常は良性型のウイルスの感染によるもので悪性化の心配はありませんが、悪性型の場合は、子
    宮頸癌、外陰癌などの発生に関与している可能性が高いと考えられています。
  ☆治療
    液体窒素による凍結療法、電気で焼く治療、レーザー治療が一般的ですが、巨大な病変に対しては
    外科的切除を行います。再発することが多く、そのたびに治療が必要です。

  ◎ひとくちメモ
    イボがびっしりとできる皮膚症状が特徴です。ウイルスの型によっては子宮頸癌、外陰癌の発生に
    関与している可能性が高いと考えられています。

6)トリコモナス症
    病原体:ヒトパピローマウイルス(HPV)

  ☆潜伏期間  4〜20日
  ☆症状・特徴
    トリコモナス原虫は男女ともに寄生します。男性は尿道炎などがみられますが無症状であることが多
    く、女性では膣炎や外陰炎などがみられます。膣炎に伴うおりものには悪臭があり、かゆみも伴い
    ます。ほとんどは性行為で感染しますが、浴場、便器、タオル、手指などから感染する可能性もあり
    ます。年齢的には30〜40歳代の女性が多く、他のSTDより年齢層が高いことが特徴です。
  ☆治療
    抗原虫薬(メトロニダゾールなど)で治療します。

  ◎ひとくちメモ
    男性は無症状であることが多く、頻度も低い疾患です。女性の方が感染しやすく膣炎などを起こしま
    すが、頻度は以前に比べれば減少傾向にあります。30〜40歳代の女性に多くみられます。
    関与している可能性が高いと考えられています。

 

7)エイズ(AIDS:後天性免疫不全症候群)
    病原体:ヒト免疫不全ウイルス(HIV)
  世界のエイズ患者数は600万人、HIV感染者数2000万人を超えると推定されています。
  日本ではエイズ患者数は1400人、HIV感染者数4000人と世界的には少ないものの、性的接触に
  よる男性患者の増加が指摘されています。

  ☆潜伏期間  平均10年
  ☆症状・特徴
    感染2〜4週間後に発熱、頭痛、咽頭痛、発疹、関節痛などカゼのような症状がみられることが
    ありますが、これらの症状はすぐに消失します。その後、無症状のまま数年から十数年の長い
    潜伏期間が続きます。この間、体内でウイルスが増殖し、免疫システムが徐々に破壊されていき
    ます。やがて免疫力の低下とともに発熱、体重減少、下痢などの様々な症状があらわれます。
    更に進行するとカリニ肺炎(ニューモシスチス・カリニという原虫による肺炎)、結核のような
    様々な病原体による感染症や、カポジ肉腫などの悪性腫瘍を併発します。この段階をエイズと
    いいます。

  ☆治療
    現時点ではエイズの特効薬はありませんが、治療法は急速に進歩してきています。
    最近では、複数の薬を組み合わせて服用する治療法が開発され、治療成績は向上しています。
    エイズは感染してもすぐに発病するわけではなく、治療によって発病を遅らせることもできます。
    感染の心当たりがある場合は検査を受け、早期に発見して治療を受けることが大切です。

  ◎エイズの相談窓口
    保健所の一部の医療機関で相談・検査を行っています。感染してHIV抗体ができるまで6〜8週間
    かかるので、検査は感染したと思われる時点から3ヶ月以降に受けることをお勧めします。
    結果は1〜2週間後にわかります。検査は、保健所では匿名方式・無料で行われており、プライバシ
    ーは守られますので、疑われる場合は、ぜひ検査を受けましょう。

 

4.STDを予防するには?

 

1)不特定の相手との性交渉は避ける
   感染の可能性のある相手との性交渉を避けることがSTD予防の基本です。
   信頼できる、お互いよく知り合った特定のパートナー以外との性交渉は慎みましょう。また、淋病
   性器クラミジア感染症、性器ヘルペスなどはオーラルセックスでも感染する可能性がありますので
   「オーラルセックスだから安全」とはいえません。

2)コンドームを使用する
   コンドームは、避妊以外にSTDの感染予防にも役立つことが知られています。
   ただし、最初から最後まで正しく使用しなければ、感染予防効果は得られませんので、”正しく使用す
   る”ことを心がけましょう。

3)B型肝炎は予防接種も
   B型肝炎には予防接種(ワクチン)があり、予防に役立てることが出来ます。また、傷の手当は自分で
   する、他人の血の付いたものには触れない、歯ブラシやカミソリは共有しない、などの日常生活の
   注意を守ることが感染予防につながります。

 

5.STDにかかってしまったら

 

1)早めに医療機関を受診
   思い当たるふしがある、症状があらわれた、などSTDが疑われたら早めに医療機関を受診して
   検査を受けましょう。STDを扱っているのは、性病科、泌尿器科、皮膚科、内科などで、女性で
   あれば産婦人科の受診も勧められます。

2)パートナーも一緒に治療を
   自分がSTDに感染していることがわかったら、パートナーも感染している可能性があります。
   このため、必ずパートナーにも検査を受けてもらうようにしましょう。もし、パートナーも感染していれば
   二人そろって完全に治るまで治療を続けましょう。
   自分が治ってもパートナーが感染しますので、自分だけの治療では、いつまでたっても治癒が期待
   出来ません。また、症状が治まったからといって勝手に治療を止めてしまうのは禁物です。