更年期障害とホルモン補充療法(HRT)


 

1.はじめに


 日本人女性の平均寿命は84歳となり、平均的な閉経年齢は50歳前後だといわれています。
 閉経を境に、女性の心と体にさまざまな変化があらわれる期間を更年期といいます。
 更年期は女性であれば誰もがつうかする、人生の折り返し地点なのです。
 最近なんだか体の調子が……と思い悩む前に自分の体のこと、又更年期という時期に自分の
 体にどのような変化がおこっているのかきちんと知る事が大切です。

2.更年期障害ってどういうもの?


 更年期を迎えると、女性の体の支えであるエストロゲンという女性特有のホルモンの分泌が急激に
 減ります。
 このエストロゲンの分泌が急激に減る事によって、さまざまな症状がでてきます。
 たとえば、のぼせ・ほてり・発汗・関節痛・動悸・息切れ・めまい・手足の冷え・頻尿・肌荒れ・首肩のこり
 便秘・下痢・腹痛など一般に更年期障害と呼ばれる症状や、尿失禁・性交痛などもあります。
 また、最近注目されている骨粗鬆症や脂質代謝異常による動脈硬化・心筋梗塞・脳卒中・老人性痴呆症
 などもエストロゲンと大きく関わっているといわれています。
 エストロゲンは骨からカルシウムの消失を防ぎ、腸管からのカルシウムの吸収を助けてくれます。
 更年期以降の女性はエストロゲンの分泌が急激に減るため、男性に比べて骨粗相症になる率が高い
 のです。
 また、エストロゲンの減少は脂質代謝の異常も引き起こします。
 エストロゲンは動脈硬化の原因となるコレストロール値の上昇を抑えるはたらきをしています。
 エストロゲンが減少するとコレストロール、特に動脈硬化を促進する悪玉コレストロール(LDL)が
 上昇します。
 コレストロールの値が高くなると、血管を硬化させたり、血管に血栓ができやすくなり、心筋梗塞や
 脳梗塞(脳卒中のひとつ)の原因となります。
 このような症状よ病気の全てをエストロゲン減少のせいにはできませんが、頭に入れておいてうまく
 対応することも必要です。

3.検診にはどのようなものがあるか?


 
1)更年期指数で自己診断

    簡易更年期指数(SMI)で50点以上だと、貴方は更年期の真っ只中です。
    一度チェックしてみてはいかがでしょうか?
  

症状
1.顔がほてる 10 6 3 0
2.汗をかきやすい 10 6 3 0
3.腰や手足が冷えやすい 14 9 5 0
4.息切れ・動悸がする 12 8 4 0
5.寝つきが悪い・眠りが浅い 14 9 5 0
6.怒りやすく、イライラする 12 8 4 0
7.くよくよしたり、憂うつになる 7 5 3 0
8.頭痛・めまい・吐き気がよくある 7 5 3 0
9.疲れやすい 7 4 2 0
10.肩こり・腰痛・手足の痛みがある 7 5 3 0


    
更年期指数の自己採点の評価法
     0〜25点      異常無し
    26〜50点      食事、運動に注意
    51〜65点      更年期・閉経外来を受診
    66〜80点      長期間の計画的な治療
    81〜100点     各科の精密検査、長期間の計画的な反応

2)血液・尿検査

   血中ホルモンの量や肝機能、コレステロールの値などを測定します。

3)乳癌・子宮癌検診

   女性特有の病気ですので、30歳を越えたら恥ずかしがらずに定期的な検診を受けたいものです。
   早期発見・早期治療が常識です。

4)骨量検査

   骨量測定器のあるところなら、簡単に検査することができます。
   骨量は一度減ったらなかなか元には戻らないもの。
   特に骨折なんてことになったら、寝たきりになってしまうこともあるのです。
   これも早期発見・早期治療が常識です。

 

4.ホルモン補充療法(HRT)って?

 

 女性は更年期を迎えるとエストロゲンという女性特有のホルモンが急激に減ります。
 これにより様々な症状が出てくるわけです。
 そこで足りなくなったホルモンを薬剤で補う事により、様々な症状を改善しようとするのがホルモン補充
 療法(Hormone Replacement Therapy : HRT)なのです。
 つまり、肌が乾燥したら美容液で水分を補給するように、体にホルモンが足りなくなったらホルモンを
 補充する、というわけです。

 

5.ホルモン補充療法の効果は?


 のぼせ・ほてり・発汗・手足の冷えなどの更年期障害の症状や、閉経後 数年して発症する性器の
 萎縮(かゆみや性交痛)、尿失禁などの症状が改善されます。
 さらに皮膚に弾力性がもどり若々しい肌になります。
 また、骨のカルシウムの消失を抑制していたエストロゲンの分泌が低下することによっておきる
骨粗鬆症
 に対しては、外からエストロゲンを補充するため効果があるとされています。

 また、エストロゲンの低下による脂質代謝の異常に対しては、エストロゲンを補充することにより
 総コレステロール値を低下させることが期待できます。
 コレステロールには、動脈硬化を抑える働きをする善玉コレステロール(HDL)と、逆に動脈硬化を
 早める悪玉コレステロール(LDL)がありますが、HRTには善玉コレステロールを増やし、悪玉コレステ
 ロールを減らすという理想的な効果があるとされています。
 また、最近では老人性痴呆の一つの原因であるアルツハイマー病にも予防効果があるとされています。

 

6.ホルモン補充療法はいつから始めるか

 

通常は、まだ更年期を迎えず、十分活動的で更年期症状もなければ特に始める必要はありません。
しかし、20代・30代でも卵巣の機能が不完全で月経が不順な人、または、月経が無い人もいます。
このような場合には更年期障害と同じような症状がでることもありますし、特に骨量が減っている人も
いますので、おかしいなと思ったら医師に相談しましょう。
また、更年期はずいぶん前に終わってしまったという人も、手遅れということはありません。
まず、自分の体の状況を知ることから始めてみましょう。

 

7.癌の心配はないのですか?


子宮内膜癌については、エストロゲンともう一つの女性ホルモンである黄体ホルモン一緒に補うことにより
何もしていない人よりも子宮内膜癌になる危険性が減ることもわかっています。

乳癌に関しては、増えるという報告と減るという報告があります。
特に5年以上の長期投与では多少増加するという報告もあります。
しかし、HRTを受けている人では、定期的に乳癌検診を行うため、早期発見が可能となるので、HRTを
受けていない人より乳癌にかかったとしても、助かる率は高いとされています。
その他の癌に関しては、現時点では特に問題はありません。

 

8.ホルモン補充療法の薬の服用方法は?


HRTには子宮の有無、閉経からの年数等を考慮して、いろいろな投与方法があります。
担当の医師とよく話し合って、貴方にあった服用方法を選ぶことができます。

 

9.生理がまたはじまるのですか?


HRTを行う場合、周期的な投与方法だと黄体ホルモン服用後に生理と同じような出血がみられます。
閉経したのにまた生理のような出血がおこるので、最初はちょっと驚かれるかもしれません。
しかし、”自分は生理のある若い体にもどったのだ”と割り切ってしまう方が良いでしょう。
また、連続的な投与方法では少量の不正出血がしばらく続くことがありますが、半年から1年でしだいに
なくなっていきますので、心配する事はありません。
もちろん、排卵しているわけではありませんから妊娠の心配がないのは言うまでもありません。

 

10.副作用はありませんか?


HRTを行うと、最初のうち軽い吐き気や胸の張り、腹部膨満感などが見られることがあります。
しかし、こういった症状は服用を続けていくうちにおさまります。
また、HRTで太るということについても問題はありません。
一つ考えるとすれば、HRTにより更年期障害の様々な悩みが解消し、食欲が回復して油断をしていると
体重が増えるということはあるかもしれません。

 

11.HRTは誰でも受けられますか?


まず、卵巣の機能が低下していなくてエストロゲンが正常に分泌されている人にはHRTは無意味です。
また、子宮癌・乳癌を経験したことのある人や肝機能に異常が人、血栓症になったことのある人はHRTを
受けることができません。
高血圧や糖尿病の人は検査を受け、十分にコントロールしながらであればHRTを受けることができますの
で、医師へご相談ください。

 

12.いつまで続けるのですか?


更年期の症状だけを抑えたいのなら、更年期の間だけ続けるということもできます。
ただし、心配なのはHRTをやめることでホルモンがまた不足して骨量が減少したり、動脈硬化がすすむ
可能性があることです。
このようなことを防ぐためににも、副作用がなければ長期的に継続されることをおすすめします。
また、HRT継続中は、症状の改善効果や副作用の早期発見などのために定期検査が行われます。
検査や検診は自分の体をよく知るために必要なことです。
医師とよく相談し、貴方にとってのHRTのメリット、デメリットを理解したうえで、HRTの継続について
自分自身で選択することが大切です。

 

13.通院はどれくらいの間隔ですか?


通常は、2週間に1回、または1カ月に1回の通院です。
しかし、遠方の方や忙しい方では、より長期の投与も可能ですので、医師に相談してください。

 

14.他の薬を一緒に服用してもよいか?


一般的にはホルモン補充療法中に風邪薬や、高血圧の薬など、ほかの薬を併用されてもかまいません。
心配なときは医師に相談してください。