<心理職の国家資格化を目指していた臨床心理士と医療心理師>

かつて、臨床心理士は、「心の専門家」としていつかは国家資格化を目指すというスタンスであった。実際、臨床心理士を養成するための指定大学院を整備し、スクールカウンセラーに任用されるなど、民間資格ながらも心理職における唯一の公的資格と言える実績を積んできた。

 そのころ、臨床心理士の国家資格化においては、文部科学省だけではなく、厚生労働省等領域をまたいだ国家資格化というのが、ネックになっていた。また、臨床心理士の中には、国家資格化していないことで、不便を感じていない人もいた。

 一方で、医療領域で働く心理職は、精神保健福祉士が医師の指導というかたちで先に国家資格化されていることもあり、心理職も国家資格化されることを望む人が多かった。そのため、医療領域に限定しての大卒で受験できる医療心理師を国家資格化する活動が先導して進んでいった。

 医療心理師のみが国家資格化するのを危ぶんだ臨床心理士も慌てて、国家資格化の活動を進め、2005年に議連の協力を得て、2資格1法案をまとめるまでに至った。

 

2資格1法案の上程中止>

 2005年に臨床心理士と医療心理師の2資格1法案が上程寸前までいった。それは、臨床心理士側が精神保健福祉士と同様の医師の指導ではなく、医療機関では医師の指示を受けるということを認めたことで、大きく動いたと記憶している。臨床心理士は、大学院卒で領域に制限はないかたちで、医療心理師は大卒で医療領域に限定するというかたちであった。

しかし、2資格1法案は、医師会(日精協等)の反対声明により、上程されることなく、廃案となった。そのとき、私は議連の意向より、与党の支持団体の医師会の方が影響力を持っているのだろうかと思った。

 

1資格1法案としての再出発>

その後、初志貫徹で臨床心理士を国家資格化させるという理想を持った日本臨床心理士資格認定協会と日本臨床心理士養成大学院協議会の連合チームと、前回の上程中止を踏まえて妥協して新しい心理職の国家資格を作ろうという現実路線の日本臨床心理士会と心理臨床学会の連合との活動のスタンスの違いが会報誌でも明確にわかるようになった。

 新しい心理職の国会資格化は、心理三団体で進められた。三団体とは、臨床心理職国家資格推進連絡協議会と医療心理師国家資格制度推進協議会と日本心理学諸学会連合である。名前からわかるように、先ほどの現実路線の臨床心理士と医療心理師に加え、臨床以外の心理学界の団体である。

 私の印象では、医療心理師をベーシックにある程度臨床心理士と同じに近づけていくというような流れに見えた。すなわち、大卒から修士卒へ、領域は制限なくということである。

臨床心理士側は、心理学全般というより、臨床心理学を中心においた国家資格というかたちにしたいという意向があった。もちろん、三団体には臨床心理学以外の心理学界も入っているので、それはスタンスの違いである。

現実路線の心理三団体は、2資格1法案で反対していた医師会の賛同を取り付け、新しい国家資格の「試験・登録機関」を目指し平成25年に日本心理研修センターを設立するなど着実に国家資格化への布石を打っていた。

心理三団体とのスタンスの違いがあるため、臨床心理士の資格を高めようとする日本臨床心理士資格認定協会と大学院での養成を重視する日本臨床心理士養成大学院協議会は、やすやすと心理三団体に賛成するわけはなかった。

また、日本臨床心理士会は、都道府県の臨床心理士会の上部団体ではない。従って、それぞれアメリカの州のように独立した都道府県の臨床心理士会は、新しい心理の国家資格「公認心理師」について賛成な地域と反対の地域に分かれていた。

ある意味、臨床心理士の存続を危うくするような心理三団体の公認心理師法案だが、なるべく臨床心理士と同様の専門性が高いかたちでの国家資格化を目指すという流れのように見えた。


<平成279月公認心理師法案の成立まで>

ついに、領域に制限のないかたちでの公認心理師法案が公開されたとき、なんと心理三団体も要求していない「(医療領域に限らない)主治医の指示」という条文が追加されていた。

前回、「医療領域に限定して医師の指示」であったのが、医療領域に限定しないのでは、心理職の業務に支障がでるのではという懸念も出てきた。

一回上程された公認心理師法案が時間切れで廃案になったとき、多くの心理職の人たちが「主治医の指示」条文の修正を願った。しかし、日本精神神経学会等が、「条文無修正での成立を望む」という声明があり、修正するならまた廃案という悩ましい状況となっていた。

この条文無修正という悩ましい状況の打破につながったのは、附帯決議質疑応答で「主治医の指示」は心理職の業務の妨げにならないものであること、「臨床心理学」「大学院卒」をメインとした国家資格化であることなどが言及されたためであろうと思われる。

臨床心理士の実績をもとにして、これまでの心理職の実績としている以上、公認心理師法案の附帯事項の中で臨床心理士への言及があっても当然かもしれない。

国家資格化現実路線で公認心理師法案を進めてきた日本臨床心理士会からは、公認心理師の取得のすすめが記載されていた。また、運営方針として、「時機に応じて当会定款を変更し、公認心理師を含む心理専門職の職能団体を目指す」とされている。 
 日本臨床心理士資認定協会からは、公認心理師法に協力して取り組み、これからも臨床心理士資格を固持・飛躍発展させることにより、公認心理師との適切で妥当な共存 共栄関係の新たな創造していくと記載されていた。

民間資格である臨床心理士は、これからも新しくできる国家資格の公認心理師と共存していけるのであろうか。今のところは、公認心理師より臨床心理士の方が知名度も実績もあり、更新制度のため、取得後もある程度の知識等が刷新される資格となっている。

以上、かなり主観的も交えて記述したが、これからも、社会の養成と関係者の 努力によって創設された公認心理師法案成立後の経過を見守っていきたいと思う。

リンク:99日に「公認心理師法」が成立しました(心理臨床学会)   公認心理師カリキュラム等検討会


Back