印環細胞様形態を示す悪性リンパ腫は、1978年Van den Tweelらにより、免疫グロブリンの封入体を有する濾胞性リンパ腫7例が報告された2)。同年Kimらは、同様な封入体を認めた濾胞性リンパ腫7例を報告し、それらをsignet ring cell lymphomaと命名した1)。現在までに40例を超す症例が報告されている。これらの症例は大部分がB細胞性悪性リンパ腫であるが、T細胞性悪性リンパ腫でも同様の形態を示すことが報告されている。これら印環細胞様形態を示す悪性リンパ腫細胞の明確な定義はなされてないが、報告例では印環細胞様形態を示す悪性リンパ腫細胞を多く含むものから少数のみ含むものまで多様である。

印環細胞様を呈する封入体には、2つの形態がある3)。すなわち、第1の形態は「好酸性で均一の球状構造を示し、PAS反応陽性の境界明瞭なRussell body様封入体を含有するもの」で、これらは電顕的に粗面小胞体内に沈着した免疫グロブリンで構成され、大部分はIgMを含有している。第2の形態は「光顕的に円形空胞状を示し、PAS反応は陰性で、電顕的には明確に境された空胞内に少数の結晶物や小嚢胞が見られるもの」で、大部分が封入体周囲限界膜にIgGを認める3)。

 印環細胞様形態を示す悪性リンパ腫細胞は、その基礎となる組織型の悪性リンパ腫とほぼ同様の予後を呈するため、印環細胞様形態を示す悪性リンパ腫細胞として分類する必要はないとされている。しかし、印環細胞様形態を示す他の腫瘍と比較すると、その予後は格段に良く、細胞学的に正確な診断が得られれば治療および予後に貢献できるものと考えられる。それゆえに、この細胞を明確に理解し、腺癌や他の印環細胞様形態を示す腫瘍と鑑別診断することは、誤った手術や異なった治療を回避することができるので大切であると考える。
細胞診断学的に、印環細胞様形態を示す悪性リンパ腫細胞と鑑別を要する疾患としては、腺癌(特に印環細胞癌)、脂肪肉腫、悪性黒色腫などが考えられる(表1)4)。


腺癌は、乳頭状、球状構造といった3次元構造の細胞の集団で出現する。核は偏在し、核縁は円滑である。Papanicolaou染色では、細胞質がライト緑好染性で、粘液は黄色調もしくは無染色である。PAS反応、アルシアン青、ムチカルミンなどで細胞質に滴状、あるいは細胞質全体に粘液が染め出されるといった特徴をもつ4、5)。

一般的な悪性リンパ腫細胞の特徴は、集塊をつくらず、細胞質に乏しい細胞が孤立散在性に出現し、核不整でPAS反応は陰性、しばしば細胞質内空胞がみられる。しかし、核を辺縁に押しやるPAS反応陽性の封入体を有する細胞がみられた場合、特に印環細胞型の腺癌との鑑別が最も重要となる。

ギムザ染色で印環細胞様形態を示し孤立散大性に出現する細胞は、印環細胞癌と鑑別することがかなり困難である。しかし、Papanicolaou染色で細胞質内にオレンジGに染まる均一無構造状の球状形態を呈する封入体、つまりRussell body様封入体が確認でき、さらに細胞転写等で免疫細胞学的に染色をすることにより印環細胞様の細胞質内の物質が確定できれば、それは診断への「カギ」となるものと考えられる。また、悪性リンパ腫でもこのような亜型があることを念頭におき、診断を行うことが必要と考えられる。

印環細胞様形態を示す腫瘍の鑑別
知っていれば役立つ! 細胞所見ワンポイント講座 B
川崎医科大学附属病院病院病理部 畠 榮

【文献】

1) Kim.H., Dorfman.R.F., Rappaport.H.: Signet-ring cell lymphoma: A rare morphologic and functional expression of nodular (follicular) lymphoma. Am J Surg Pathol 1978; 2: 119-132

2) Van den Tweel.J.G., Tayor.G.R., Rarker.J.W., et al.: Immunogloblin inclusions innon-Hodgikin's lymphoma. Am J clinic Pathol 1978; 69: 306-313

3)                        Eyden.B.P., Cross.P.A., Harris.M.: The ultrastructure of signet-ring cell non-Hodgkin's lymphoma Virchows Archiv A Pathol Anant 1990; 417: 395-404

4)                        Cangiarella.J, Weg.N., Symmans.W.F., et al.: Aspiration cytology of signet-ring cell lymphoma: A case report. Acta Cytologica 1997; 41: 1828-1832