黄 昏 の 悪 夢 1


「おい小僧、人の邪魔をしておいて、逃げるつもりか?」
「偶然通っただけだよ。それよりさ、そのズボンの膨れ部分どうにかしたら?幾ら若くても、その格好はダサイよ」
 リョーマの指摘を受けた亜久津は上半身裸の制服姿だったが、ズボンの膨らみが“男”を強調していた。
 現状にいたる亜久津の姿は、年上の女性からの逆ナンパに捕まり、夜の公園で最後の楽しみを実行しようとした時、買い物帰りのリョーマと出会った事にあった。
「貴様が出てこなければ、こんな事になってねぇよ」
「ふーん。でもさ、やっぱダサイよ。早くどうにかしたら?」
『自分は関係ないよ』と、雰囲気丸出しのリョーマに、亜久津は砂埃に汚れたズボンを叩きながら歩み寄り、小柄なリョーマを見下ろした。
「だったら、お前の身体で代償をして貰おうか?」
「……?」
 突然の言葉に、リョーマの思考回路が凍結する。
「要するに、処理の相手になれって事だ。足開いて尻を出すだけでいい。簡単な事だろ?」
 さらりと向けられた言葉に危険を感じて、反射的に逃げようとすれば、あっさりと亜久津に腕を取られた。
「は…放せよ」
「処理のが終わったら解放してやるよ」
「冗談じゃないよ。何で、あんたの相手をする事になるんだよ。相手が必要ならホテル街にでも行けばいいだろ」
 リョーマも持ち前の腕力で押さえ付けてくる力を振り払うが、亜久津の手はびくともしなかった。
「処理が目的なら、相手が女である必要はない。締まりの良い尻なら男でも充分事足りる」
 衝撃的な言葉に、リョーマは足元が崩れ落ちる錯覚にに陥った。
「無抵抗はつまらないが、体格差で逃げられるとでも思っているのか?」
 耳元で囁かれる声に、リョーマの表情が青ざめる。
「ふざけるな!!」
 もしもの時用に父・南次郎から教わった護身術で、亜久津を弾き飛ばそうとした瞬間、リョーマは脇腹に激しい衝撃を感じた。
「…うぁっ!!」
 全身に駆け巡る衝撃に、リョーマは力無くその場に倒れ込む。
 衝撃の余波に耐え、亜久津の手元を見上げ声を絞り出した。
「…何で、そんな…物を持ってるんだよ」
「このスタンガンか? さっきの女が護身用で持っていたんだ。刺激的で楽しめそうだろ?」
「そんな物が無いと、俺に逃げられると思ったわけ?」
 嫌な笑みを浮かべて言葉を返してくる亜久津に、リョーマは無意識に毒舌してしまった。
「威勢がいいのは勝手だが、この状況下で体格・腕力差で負けるわけ無いだろ。スタンガンを持ち出したのは、色気のない性欲処理の相手をさせられるより、こんなプレイでの楽しみ方があるのを教えてやるためにさ」
 衝撃に動けないでいるリョーマを見下し、近くのごみ箱から荒縄を見付け出した亜久津は、蹲ったままのリョーマを両手首を縛り上げる。そして、大木の枝に荒縄の残りを結びつけると、リョーマの身体を吊し上げた。
「降ろせよ」
「全てが終わったら、降ろしてやるよ。しっかり腰を振って、俺を楽しませてくれよ」
「触るなっ」
 こんな男の言いなりになるのが嫌で、リョーマは無我夢中で蹴り足を上げた。しかし、反射神経の良い亜久津にはヒットせず、意図も簡単に足首を掴まれる結果となった。
「テニスの腕は良いが、足癖は悪すぎるな」
 反抗的なリョーマの腹部に、亜久津はきつい一撃の拳を叩き込んだ。
 目が眩む衝撃に、リョーマの身体から力が抜け落ちる。
「しっかり腰を振って、俺を楽しませてくれよ」
 何の抵抗も出来ないまま、亜久津に胸元を掴まれ服のボタンが弾け飛ぶ。
「いやっ」
 自分に向けられる暴力に、リョーマから悲鳴が上がる。
 そして、瞬く間に下着ごとズボンを脱がされ、全てが外気に晒された。
「帰国子女なら、男女問わずで初体験は済んでいるんだろ?」
「……ある訳……ないだろ」
 向けられた言葉に、リョーマは頬を紅潮させ速答で否定した。
「初物か。調教のしがいがあるな」
「ふざけるな。変態野郎!」
「一生消えない傷を身体に刻み込んでやろうか?それとも、一生忘れられない快楽という名の苦痛をその身体に教え込んでやろうか?」
 背筋が凍り付くような亜久津の言葉に、リョーマは反論も出来ず青ざめた。
 片手でスタンガンを弄び、リョーマの股間にゆっくり押し付けた。
 外気に晒され、直接肌に感じるスタンガンの感触に身体が強張る。
「…やめ…っ」
 両腕を縛られ木に吊るし上げられた現状では、リョーマに逃げる手段はない。
「大人しくしていれば、楽しませてやるよ」
「……」
「…なんだ、縮んじまってんじゃねぇか。だが、初物相手にする時は、自分好みに調教するのが一番の楽しみだからな」



2へ続く


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