依頼品の奪還に成功し、追跡者を振り切って、一本の吊り橋に辿り着いたのは予定通りだったが、その吊り橋を全力で駆け抜けようとした瞬間、老朽化した足場が崩れる。
「なっ!」
状況に反応する暇なく、蛮と銀次の二人は、十数メートル下の谷川に落ちた。
深い闇の中に、水飛沫の音が響く。
「蛮ちゃん!」
奪還の際に傷を負った蛮を心配して銀次は、水流の中に蛮の姿を探した。
月明かりの少ない闇夜の中で、岩肌に身を寄せる蛮の姿を確認すると急いで泳ぎ寄った。
「蛮ちゃん、大丈夫?」
水に濡れて垂れ下がった蛮の前髪を掻き上げて表情を覗き込めば、苦痛に染まった眼と合った。
「…大丈夫だと言いたいが、さっきの衝撃で肋骨が3本程完全に折れちまった…くっ」
痛みに脇腹を押さえ蹲る蛮の身体が、水の流れに呑み込まれかけて、銀次が慌てて身体を支える。
「蛮ちゃん、しっかり掴まって」
流れに逆らわぬよう水流に身を任せて、浅瀬に這い上がる。
衝撃を与えないようにして肩を貸せば、耳元で苦痛を訴える蛮の声が聞こえた。
「…痛」
「蛮ちゃん?」
「今日はつくづく厄日だぜ。吊り橋の破片で足まで切れてやがる」
痛みでふらつきそうになって踏み止まった蛮の右足…足首がザックリと切れていた。
流血に驚き、蛮を岩肌に預けて腰を下ろした銀次は、自分のシャツを引き裂き傷口にきつく巻き付ける。
出血が多くて瞬く間に、シャツが血の色に染まっていく。
「銀次。お前はこのまま川を下ってヘヴン達と合流しろ。そして、これを依頼人の元に届けるんだ」
蛮は懐から小さな依頼品を取り出した。
「でも、蛮ちゃんはどうするの?」
差し出された物を戸惑い気に受け取り、銀次は蛮を見上げた。
「この足で、岩だらけのここを走り抜けるのは無理だ。状況的に足手纏いにしかならねぇよ」
立っている事が辛くて、座り込んでしまった蛮に、タレ銀次と化してしがみつく。
「一応追っ手は振り切ったけど、ケガをしている蛮ちゃん一人を残す事は出来ないよ」
「心配するなって、眼でしか物を追えない連中だ。物陰で気配を消していれば、気付かれねぇよ」
不安で泣きそうな銀次に、蛮は強気な視線を返して見せた。
「分かった。俺、依頼人にこれを届けてくる。蛮ちゃん気を付けてね」
「あぁ、ドジすんな…」
言葉を綴る蛮を見つめると、その唇に触れるだけのキスをする。
突然の事に蛮が硬直する。半瞬後、蛮の拳骨が銀次の脳天に炸裂した。
「時と場合を考えろ!馬鹿銀次っ」
「痛いよ。蛮ちゃん」
涙目になってタレる銀次に、きつい激を飛ばす。
「俺たちの奪還は、奪還品を依頼人に届けて、その全てが完了する。忘れんなよ銀次」
痛みを我慢して銀次を引き寄せると、今度は蛮の方から銀次の口を塞いだ。
角度を変えて深く絡み合う。
「蛮…ちゃん…」
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