傷付いた身体がぐらりと揺れ、荒れ果てた地面に倒れ込む。
「昌浩!しっかりしろ」
一番に守らなければならない大切な存在。
自分に暖かい光を与えてくれた昌浩。
真っ赤な血に染まった身体を抱き支える。
「ごめん…紅蓮…約束を守れ…なくて…ぐっ」
血の気を失いながらも、言葉を綴る昌浩の表情が苦痛の色に染まる。
そして、次の瞬間、多量の血が逆流する。
「もういい。無理に喋るなっ!」
致死量に匹敵する量に、紅蓮の手が昌浩の言葉を遮った。
「…大…陰陽師に…なれなく…て…ごめ…」
尚も言葉を続け、紅蓮の頬に触れる昌浩の手が、力を失い地に落ちる。
「ま…昌浩…逝くなっ!」
辺りに紅蓮の悲痛な叫び声が木霊する。
「生い先短いわしより、先に逝く奴がおるかっ!昌浩」
十二神将、火将・騰蛇(紅蓮)の腕に抱かれた末孫・昌浩。
稀代の大陰陽師である安倍晴明は、紅蓮の腕から昌浩を抱き寄せる。
その小さな身体は傷付き、狩衣は血の色に染まっていた。
過去に、二度も命の危険を経験した昌浩。
異邦の妖怪との戦いでは、半人前の陰陽師故に、傷付いた……貴船の神による情け。
屍鬼に取り込まれた紅蓮の魂を解放する代償として、その命を……何十年も前に病で逝った祖母・若菜の願い。
神の情けと祖母の願いで蘇った命。
二度も救われた命。
だが、三度救う力はその場にいる誰一人持ってはいなかった。
「…昌浩……我、願わくば…………」
晴明は昌浩を胸元に抱きしめ、呪一言唱える。
「晴明、昌浩に何を施した?」
「転生の願掛けじゃ。今度こそ幸せな人生を歩めるように」
血筋の中で一番強い力を受け継ぎ、短い生涯を送った昌浩に転生の術を施した晴明は、今一度、昌浩を強く抱きしめた。
※第一作品が死にネタなんて……何やっているのかしら自分。
文庫小説、ボーイズ・ラブ以外で、真剣に読んだ『少年陰陽師シリーズ』
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