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ベッドから跳ね起きると、まだ真夜中だった。 窓から差し込む月の光に室内は青く照らされている。 テーブルに置かれた水差しの水を飲み、一息つく。 脈がまだ早い。 全身にびっしょりとかいた汗がうっとおしい。 少し夜風に当たりたくなって、 私はそのままテラスへ出た。 空に高く上った月は丸く青く輝いていた。 全く、なんという悪夢だ。 腹に手を当てると、 夢の内容がリアルに思い出されて、思わず身震いしてしまう。 敵。 そうだった。 忘れていたわけではないが、 知らず知らずのうちに、意識が薄れていた。 ヤツは、敵だ。 天空殿を破壊し、数えきれないほどの人々を殺した、 いくら憎んでも憎み足りないほどの、敵だ。 そんな男と、私は修行と称して同じ時間を過ごしている。 良いのか、それで。 月を見つめて考えていると、横から声がした。 「なに辛気臭い顔してんだ、この夜中に」 見ると、そこにはその「敵」がいた。 「うわぁ!?」 全く気配を感じなかった。 マヌケな声を発してしまった私を鼻で笑って、 奴はスタスタと部屋の中へと入っていく。 「おい、ちょっと!」 静止の声はあっさり無視された。 続いて部屋に飛び込むと、少し、酒臭い。 「勝手に入るな!」 奴はテーブルの水差しを発見すると そのままガブガブと一気に飲み干し、 椅子に腰掛けてから満足気に大きく息をついた。 「怖い夢でも、見たか」 「お前には関係ない」 ドキリ、とするが受け流す。 このまま居座られても困る。 私は奴を追い出そうと歩み寄る。 が、 その前に一つだけ聞きたいことを思いついて立ち止まった。 「お前、どうして私に修行をつけようなんて思った?」 「そりゃ、」 そこまで答えて、奴はふと考えるような仕草をする。 「・・・やめた」 「言え!」 私の叫びを無視して、 奴は椅子から立ち上がるとこちらへ歩いてきた。 そのまますれ違ってベランダへと出て行こうとする。 動け。 私の足。 動け。 私の体。 引き止めようとするけれど、 頭に焼きついた夢の中の光景が、私の動きを阻害する。 「お前には関係ない」 結局、私は一歩も動くことのできないまま、 奴はベランダへと出ると、夜の闇へと消えていった。 残された私は、ただ立ち尽くすしかなかった。 何か言おうとしたということは 理由は何かあるのだろう。 ただの暇つぶしなのかもしれない。 それならそれでも良い。 いや、そのほうがいい。 特別な理由などない方が良い。 そう、「特別」な。 ふと思いついたことが頭に妙に引っかかった。 (「特別」ってなんだ) 私が奴にとっての「特別」な存在だとしたら。 ただの仮定なのに、妙にうろたえてしまう。 きっと夢のせいだ。 夢の中で、奴が私の名前など呼ぶから。 (落ち着け、私!) 心の叫びに反して、動悸まで激しくなってくる。 (とりあえず、み、水・・・) 水。 けれど、テーブルの水差しは空だ。 さきほど、奴が飲み干してしまったから。 (あーー、もう、どうしよう!) 良く分からないけれど、とにかく顔が熱い。 もうどうしたらいいかわからなくなった私は、 物凄い勢いでベッドに飛び込み、布団を頭から被ったのだった。 「名前を呼んで」の後な感じで。 一度やってみたかったちょっとだけあっくん×レンゲちゃん。 あっくんはなんだかんだで男前だとおもうので、 多少はレンゲさんはドキドキすればいいと思うのですよ。 update 2010/08/03 |