ソックス。



「ちょっとーー!!!なにやってんのよ!!」

昼一番で訪ねたアカラナータ邸。
玄関のドアを開けた瞬間に聞こえてきたトライローの怒声に
クンダリーニは慌ててドアを閉めた。

その後も中から怒声が響いている所をみると
どうやら自分へ向けたものではないらしい。

ほっと一呼吸おいてから少しだけドアを開け、
恐る恐る隙間から覗いてみると、
リビングの向こうのベッドの上では、
トライローがアカラナータを押し倒してなにやら喚いていた。

真昼間からお盛んだな。

げんなりとしたクンダリーニだが、
とりあえずそのまま様子を伺うことにした。

どうやら、起きだしたアカラナータが着替えている途中で喧嘩になったらしい。
トライローが右脇にアカラナータの左足を抱え込んだまま、
なにかグレーの布のようなものを左手に振りかざしている。
アカラナータはその布を取り返そうとしているところをみると、
アレが喧嘩の原因なのだろう。

(なんだ、ありゃ?)

クンダリーニの疑問はすぐに解けた。
トライローが背後へと投げ捨てたその布が
クンダリーニの方へ飛んできたのだ。
ものすごい勢いで飛んできたそれを掴み取ってみれば、
それは見覚えのあるもので。


「信じらんない!
 なんで五本指ソックスなんて、履いてんのよ!!!」
「やかましい!!!!」


五本指ソックス。
クンダリーニの記憶が正しければ、
それは人間界の衣類の一つで、確か靴の下に履くものだったはずだ。

「オレが何履こうが勝手だろうが!」

抱え込まれた左足が裸足のところを見ると、
トライローに無理矢理剥ぎ取られたということか。

残った右足の片割れを巡って暴れる2人をぼんやりと見つめ、
クンダリーニはふと先日アカラナータが話していたことを思い出していた。

『人間界の服は窮屈で苦手なんだけどよー、ソックスっていうの?
 アレだけはありかなーとか思うんだよな。足べたべたしねえし』

そのときは酒も入っていたし、あー、そうかもなぁ、
などと、適当に返事をした記憶があるが、
本気だったらしい。

「冗談じゃないわよ!!
 なんか珍しく自分で買ってるなー、って思ってたら・・・
 なんでよりによって五本指ソックスなのよ!!!
 しかも何よこの色!オッサンか!あんた!」
「いいだろうがよ!別に見えるわけじゃねえし」
「その根性が気にくわないのよ!!!
 見えないとこまで気つかうのがオシャレってもんでしょうが!」
「オレは実用性を取ってんだよ!!」

そういえば、つい先日ムリヤリ人間界に連れて行かれたとかなんとか
アカラナータが愚痴っていたような気がする。

(しっかり買い物楽しんでるんじゃねえか・・・)

クンダリーニが多少めまいを覚えながら立ち尽くす一方、
2人の抗争はさらに激化していた。
アカラナータの蹴り出した右足をようやく捕まえたトライローが、
ソックスを脱がせるべく、右脇に持ち替えて背中からのしかかると、
それをさせまいとアカラナータがチョークスリーパーをかける。
さらにそのアカラナータを引き剥がそうと、ベッド下から伸びた
妖魔樹の蔦がぎりぎりと絡み付いているという具合である。

(帰ろう・・・)

クンダリーニは大きなため息をつくと、
手にした5本指ソックスをそっとテーブルに置いた。
触らぬ神に祟りなしだ。

その後、自分の家へ戻ったクンダリーニの元へ、
アカラナータがやってきたのだが、
非常に不機嫌な様子の彼は5本指ソックスを履いておらず、
騒動の結末についてはノーコメントだったという。


―果たして5本指ソックスがどうなったのかは未だ謎のままである。




久々に軽いノリで。
最近の5本指ソックスは可愛いのがあるみたいですが
あっくんは普通に、無難な単色の男性用ソックスを買ったようです。
まあ、まちがっちゃいないよな。
update 2012/03/19


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