風邪をひいた日


―なにか、変だ。
そう気づいたのは、朝目覚めたときだった。
今朝も変わらず、至近距離から響いてくるトライローの怒鳴り声。
そして鍋を乱打する音。
いつもならばこちらも起き上がりざまに怒鳴り返すところだが、
今日はいまいち乗り気がしない。

「うーん・・・」

シーツを頭までかぶりなおし、音に背を向ける。
さらに枕を無理やり耳に押し付けるが、頭に響く金属音はその勢いを増すばかり。
それでもなんとか2度寝しようと努力はしたのだが・・・

無理だ。もう我慢ならん。

「てめえ、朝っぱらからうるせえんだよ!!」

シーツを跳ね除けて、勢いよくベッドから起き上がる。

そこでオレは最初の予感が正しかったことを知った。

体が、重い。
目が回る。

なんなんだ、一体。

たまらずベッドに倒れこんだその後、
意識は闇に沈んだ。





再び目を覚ましたとき、体調は最悪だった。

頭が痛い。関節も痛い。
目を開ければ目も痛い。
手足は重く、おまけにひどく寒気がする。


「風邪かなー?いや、いまの時期だとインフルエンザ?」


表紙に金字で『家庭の医学』とかなんとか刻まれている分厚い本を片手に
首を捻っている似非医者の声がひどくウザイ。


「トライロー・・・もっとボリューム落としてくれ・・・頭が痛い」


ああ、喉も痛い。


普段はシーツ一枚で眠っているオレは、
今や、トライローの買ってきた分厚い布団に包まっていた。
その上からはさらに何枚も毛布がかぶせられ、
少々重いほどなのだけれど・・・それでも、寒い。

それだけオレの体温が高いということか。
あっという間にぬるくなった額の冷却シートに業を煮やし、
頭の下にねじ込まれた保冷剤に顔を押し付けていると、
ワキに挟んでいた体温計のアラームがなった。


「・・・38.7度、か。微妙〜」


・・・いや、相当キツイんですがね。


もちろん、そんなツッコミを発する気力があるはずも無く。

なにをどう判断したのかは知らないが、
奴が体温計をしまいに行き、戻ってきたときには、
オレは「ただの風邪っぴき」ということになっていたようだ。
というのも。
戻ってきたトライローが手にしていたのは、
「風邪と民間療法」と書かれたハンドブック。

・・・『家庭の医学』はどうした。

なけなしの気力を振り絞ったオレのジト目をものともせず、
ハナウタを歌いながらページをめくっていたヤツは、
やがてうれしそうな悲鳴をあげた。


「ちょっとアーちゃん!これいいんじゃない!?
 ネギをお尻に刺すと風邪に効くんだって!」

「良くねえよ!!!!」


思わず怒鳴ると、猛烈なめまいがした。
いかん、限界だ。
オレこのまま死ぬんじゃねえのか。
いや、もう死んでるわけだから、ずっとこの状態が続くのか。

思わず涙もちょちょぎれる。
マジでケツにネギ突っ込むか、なんて物騒な考えも頭をよぎる。

そのまま起きていたら、うっかり同意してしまいそうな気もして、
オレは当面の回避策として、まずは寝ることにした。
さすがにトライローも、寝ている病人の服を剥ぐようなことは
しないだろう。


というわけで。
頼む、アナンタ。
今日ばかりは出てきてくれるなよ。


そう心から念じたのにも関わらず。
オレはそれから3日間、
白ネギを持ったアナンタに追い回される夢にうなされることになる。





本来、天空界にも天霊界にも病気は無いんですが、
人間界に遊びに行ったときにウィルスもってきちゃった、ということで。
・・・ところで白ネギって、やったことある人いるんですかね?

update 2007/02/24


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