村が壊滅してから、天涯孤独の身となったバサラは、
天空殿で、神将候補生として育った。

彼は非常に優秀だった。
めきめきと頭角を現し、20歳の若さで、風帝となる。

しかし、それはあの悪夢の始まりでもあった。
最初は月に1度程度。
それが、だんだんと頻度を増し、ここ数年は毎日のように見ている。
そして、あの声。

あの声が聞こえだしてから、バサラは妙に事を急ぐようになっていた。
特に、戦術に関して。

慎重派である水帝ヴリトラとは特に顕著に対立した。
民間人への被害を抑えるため、時に強攻策にでるバサラに対し、
神将への被害をも最小限に抑えることを主張するヴリトラ。
大概はヴリトラの主張が通り、バサラが引かざるをえないのだが、
心は納まらない。

対立は日に日に激化し、時にはバサラが単独突撃をすることさえあった。
日に日に増す不満。ざわつく心。
そしていつしか、彼はどこかでこう思うようになっていった。

「あの時も、もしかしたら間に合ったのではないか」

と。
もちろん、その思いは心の奥に押し込めたが。


そんなとき、彼は東方軍総司令の命を受けることになる。


東方最前線となる砦は、昔、彼の村があった場所に作られていた。
前方には大きな河があり、背後には山があることが決め手だったらしい。
防御に適した場所だということなのだろう。
もっとも、かつての村人達には何の役にも立たなかったのだが。

バサラはそこの任に就いた時、
なにか運命のようなものを感じていた。

ここから新たな日々が始まるのだ、と。


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