納得いかない



…納得、いかない。

私が、降三世明王に就任してからの、
初めての年始の挨拶の日。

歩擲明王パダナ殿の呼びかけにより、
八大明王はある一室に集まっていた。

最年少である私が就任したことにより、
八大明王は勢ぞろいしたことになる。
そこで、一度顔合わせをしておいた方がよい、
という心遣いだ。

そこで、私は『彼』に出会った。

不動明王イルヴァーナ。

黒い天然パーマのボサボサ頭には寝癖も付いており、
前髪が長すぎて、表情もよく読み取れない。
おまけに、猫背だ。

正直に言って、不動明王には似つかわしくない。
そう思った。

不動明王といえば、八大明王の筆頭だ。
それがこの有様。
いくら天空界が平和だからと言っても、
生活態度が緩んでいるにも程がある。

おまけに、この男。
適当に自己紹介を済ませたかと思うと、
さっさと部屋を出ていこうとするではないか。
連帯感の欠片もない。

「ちょっと、待て」

思わず、呼びとめると。

「何?」

気だるく返事をして振り返ったその様子に、
思わずカチンときて。

「…この後、手合わせを、願えないか」

私は、彼にそう告げていた。
そう、身をもって確認しなければ。納得いかない。
こんな男が同僚だなんて。

「えー…参ったなあ…図書室に早く戻りたいんだけど」

…図書室!?
軟弱な。

いい加減、堪忍袋の緒が切れそうだ。

そんな私の様子に、あわててパダナ殿が間に入る。

「まあまあ…相手してやっても、いいだろう?
たまには体を動かすのも、良い気分転換になるもんだ」

…パダナ殿のその言い草も、なんだか気に障るが…
実際に手合わせすれば済む話だ。
私には、手加減をするつもりはない。
ただの気分転換などで、済ませるものか。

「…パダナの言うことじゃ、仕方ないなあ…」

渋々、イルヴァーナは了承し、私達の手合わせは決定した。


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