堕ちる
そこを通ったのは偶然だった。 近くの村の診療所を回り、天空殿へと戻る、その途中。 紅い華が一面に広がるその中に、奴は居た。 華に埋もれるようにうつ伏せに横たわっている姿は 一瞬、過去の哀しい別れを連想させる。 夕日に照らされた華達は、燃えるように赤い。 そのままにして置けば燃え尽きてなくなってしまいそうで、 気づけば私は、奴の方へと歩き出していた。 私が近づいていっても、奴は全く動く気配を見せなかった。 眠っているのだろうか。 だとしても、私の気配に気づかないはずはない。 妙な胸騒ぎがする。 駆け出しそうになるのを堪えて、 できるだけゆっくり歩いてたどり着いて。 ほっとすると同時に、立ち尽くした。 奴は眠っていた。 ―見たことのない、穏やかな顔で。 そっとしゃがみこんで、様子を伺うと、何かを呟いている。 「・・・イロー・・・お前・・・いいかげんに・・・」 何だ? さらに聞き取ろうと顔を近づけたとたん、 奴の目が開いた。 次の瞬間、ゴツッ!と鈍い音がして、私はその場に転がっていた。 側頭部同士を思いっきりぶつけてしまったのだ。 奴も寝転がった体勢のまま、向こうを向いて頭を抑えている。 「痛・・・ってえええええなああああああ!」 怒鳴り散らしながら起き上がった奴の顔はいつもどおりだった。 「なんなんだ、一体!?てめえは!!」 一瞬ぽかんとして見上げるだけの私だったが、 一方的に怒鳴りつけられて、反射的に怒鳴り返す。 「うるさい!貴様がそこで倒れているから!心配になってだな!」 「お前に心配されるほど落ちぶれてはおらんわ!」 「だったらこんなところで寝るな!何かあったのかと思ったじゃないか!」 「俺に何があろうとお前には関係ないだろう!」 「無いわけあるか!貴様は私の・・・!」 ・・・私の? 急に口篭ってしまった私の態度に、奴は怪訝な顔をした後、 意地の悪い表情になる。 「・・・お前の?何だ?」 「私の・・・」 私の『何』なんだろう。 私は今、何と言おうとした? 言葉を失って立ち尽くす私を、奴はしばらく見つめたあと、 ふん、と鼻で笑った。 ふと気配を感じて我に返る。 私の胸には、いつの間にか一輪の曼珠沙華が刺さっていた。 顔をあげると、そこには奴の顔。 至近距離すぎて、ぎょっとして固まってしまう。 「お前には天王とのおままごとがお似合いだよ」 奴はニヤリと笑うと、ぐしゃぐしゃ、と私の頭をなで、 高笑いをしながら天空殿の方向へと飛び去っていった。 「な・・・」 残された私はといえば。 口をぱくぱくさせるのみ。 「違ーーーーーーーう!!!!!」 しばらくたって、奴の去って行った方向にそう叫んだけれど、 『何が』違うのか。 私には結局わからないままなのだった。 流れとしては[93.ささやき]→[329.腕の中で]の続きな感じ。 レンゲさん、迷走中、って感じで・・・ いや、ノーマルカップリング派なんですよ。一応。 update 2011/05/08 |