「あーーーーーーーーーーーー!!!!!」


朝。
女のものすごい悲鳴でオレは目を覚ました。
トライローめ・・・朝っぱらから騒いでんじゃねえよ・・・

外はやけにいい天気で、朝日が目にしみる。
枕にうつぶせたまま朦朧とした頭の覚醒を待っていると、
どすんと上になにかが凄い勢いでのっかってきた。

「ぐえっ」

息も絶え絶え、なんとか顔をあげるとトライローが上で騒いでいた。

「ずるい!!!ちょっとアンタ達!なにやってんのよーーーー!!!」

奴はベッドの上、窓際に整列させた妖魔樹たちに怒鳴り散らしていた。

「冗談じゃないわよ!アタシですらなかなか一緒に寝かせてもらえないのにー!!」

そう、結論からいうと。
オレは奴らを追い返せなかったのだ。
ベッドの隅で寄り集まって、
ビクビクしながらこちらの様子を伺っている(ように見えた)
奴らが妙に不憫に思えてしまったわけで・・・。

最初はベッドの窓側半分を奴らに譲ってやって、
オレは残り半分で寝ていたのだが、
寝てる間にその境界もあいまいになってしまったらしく。
結局、朝になる頃には全員(人扱いしたくないが)ごちゃ混ぜの雑魚寝状態。
それをトライローが発見したというわけだ。

「ちょっとーーー!あんたら、聞いてんの!?」
「お前、ちょっとうるさい。ていうか退け」
「だってこの子達!」
「オレがいいって言ったんだよ」
「なにソレ!?アタシの時はいつも追い出すじゃない!」
「当たり前だろ。暑いんだよ。
こいつら意外とひんやりしてっから便利だったぞ」
「ずるいーーー!あたしも寝たい寝たい寝たい!!」

ばたばたと手足をばたつかせるトライロー。
だだをこねる時にはお約束のリアクションだが、
朝イチでこれは、さすがにキツイ。

「あーもう!お前もいい年なんだから、妖魔樹なんかに嫉妬すんじゃねえよ!」

思わず怒鳴りつけると、トライローはうぐ、と口をつぐんで下を向いた。
勝った。
オレは再びシーツにもぐりこむ。
コレでようやく静かに寝れる。
・・・と、思ったのだけれど。

「・・・それじゃ、暑くなければ問題ないのね」
「あ?」

再び顔を上げたトライローの表情は、まさに鬼と化していた。

「ヒンヤリしてたら文句ないわね、って言ったのよ!!!」

トライローが絶叫すると、髪の毛が逆立ち、黒のソーマが立ち上る。
まさか。この女。
頭に響いた警鐘に従い、窓を破って転がり出ると、
次の瞬間、家の屋根が吹き飛んだ。
変わりに顔を出したのは巨大な妖魔樹。
まあ、言うまでもなくトライローだ。

『こうなったら、意地でも一緒に寝てやるんだから!!!』

トライローが天に向かって吠えた。
何重にも重なった野太い声がびりびりと空気を震わせ、
その衝撃で窓ガラスが割れる。
やがてテンションが上がりすぎたヤツは、狂ったように笑い出した。

オレはただ、その様子を少し離れた場所からぼんやりと眺めていた。
もう怒りとか、そういうのはとっくに通りこしていた。
何も感じないし、かける言葉も見つからない。
そうだな、あえて言うならば・・・。

たしかに、妖魔樹になりゃヒンヤリしてるだろうけどよ。
お前、それじゃベッドにはいらんだろ。

そんな的外れなことを考えたりしていると、
被害を逃れた妖魔樹たちがそばに集まってきた。

「・・・一緒に、寝てやればよかったのかな」
「ギ」
「・・・そうか・・・」

視線を戻すと、丁度、笑い声の震動に耐えかねた家の壁が崩れおちる所だった。
それでもまったく落ち着く様子もなく、ひたすらに怪声を響かせている化け物。
ソレをただ眺めるだけのオレ達。


耳をつんざく騒音が止んだのは、
奴が極限まで腹を空かせる、正午を回った頃だった。




あまりにお姉さまが不憫なので、
その夜は一緒に寝てあげたとかなんとか。もちろん暑いので妖魔樹も一緒。
update 2006/09/26


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