負け犬エレジー

アカラナータがやってきたのは、深夜。
完全に日が変わってからだった。
ベッドで熟睡していた俺がふと気配を感じて目を覚ますと、
いつのまに入ってきたのか、
奴は勝手にテーブルで俺の酒を飲んでいた。

「なにしてんだ」
「…お前さ。好きな奴とかっていないわけ?」
「は?」

あまりにも唐突な問いに俺は思わず問い返していた。
「だから。好きな女だよ。おーんーな。」
俺の前に座ってるアカラナータはにやにやしながら
俺の目の前で指をぐるぐるまわしてみせる。
かなり酔ってるみたいだ。

「別にいねえけど」
「マジで〜?なんで?」
「いや、なんでといわれても」
「いねえの?」
「おう」
「そっか…」

しばらくの沈黙。
また奴が話し掛けてくる。

「あのさ」
「ん?」
「オレがデーヴァを抜けたとき、どうしてオレについてこようと思った?」
「はあ?」

なんなんだ!?いったいどうしたんだ、こいつ。
俺がかなり変な顔をしていることにも気づかず、奴は続けた。

「だってよ。オレよ?ついてきて、なんかいいことあるか?」
「…」

そう真顔で聞かれて、思わず俺も考え込んでしまう。
もともと、深く考えずにノリと勢いでついてきたからなあ。
いまさらそう理由を聞かれても、困るってもんだ。

「…だよなあ」

答えられずに黙り込んだ俺を見て、
アカラナータは、ため息をつくと手にしたグラスを一気に煽った。
なんだか、納得したらしい。
それからまた、ちょっとばかし沈黙が続く。
奴は空のグラスをぐるぐる回して、角度を変えてひたすら覗き込んでいたが、
やがてぼそりと呟いた。

「…トライローは、どうしてついてきたんだろな…」

「いや、それは解れよ!」

おもわず声にだして突っ込んでしまい、
奴にじろりと睨まれる。怖い。

「…すみません」

頭をさげると、奴は再びため息をつき、グラスに酒をなみなみと注ぎいれた。
その色をしばらく眺めた後、テーブルに置く。
そしてまた、ため息。
今度は凄く深いヤツだ…。

「…だよなあ」


え。ちょっと。今、口元笑ってなかったか。
気のせいか?

非常に気になるけれども
テーブルに突っ伏してしまったのでここからは見えない。
仕方がないので、水をもっていってやるフリをして、
反対側から覗き込んだ。

ああ、笑ってる笑ってる。
突っ伏したまま。

「本当、わかんねえよなぁ…あの女も」

すげえ自嘲的に。

「…オレなんかに、よ」


幸せそうに。


見てはいけないものを見てしまった気がした。
同時に、急に何かが込み上げてきて、
俺はたまらず家を飛び出した。
この気持ちがなんなのか、とか
そもそもなんで飛び出すのか、とか
そんなことも考える間もなく飛び出した。

走って、走って、走りぬいて、
近所の丘のテッペンにたどりついたところで、
足をとられてすっ転んだ。

まばらな草地。
地面にモロに顔をぶつけて、土まみれになる。
いい年してみっともねえと思うけれども、
起き上がる気力が湧かない。
ただ、無性に悔しくて、
そのまま、地面に転がっていた。



ああ、神様。
俺も彼女がほしいです。


安西先生、バスケがしたいです。

酔っぱらいがなんかうだうだやってる話をやってみたかったので
一発書いてみたんですけれども…
なんだかわからないうちに始まって、なんだかわからないうちに終わっていきました。
雰囲気だけお楽しみいただければ幸いです。
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<追記>
っていっぺんUPしたあとに、文章内に一切クンダリーニの名前が出てないことに気づきました。
でもまあ、ウチで負け犬っていえばあのオッサンしかいないので、
まあ、だいたい予想がつく、といいな…と思うのですが…無理です。すみません。
と、いうわけで夜中に外でベソかいてる負け犬はクンダリーニです。
某日記の1年目ぐらいの時期設定です。
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update 2005.03.20