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砦についてから、数ヶ月。 前方の河を挟んで、アスラ側が砦らしきものを築いているとの報告を受け、 バサラは天空殿に援軍要請を送った。 あちらはいよいよ、本格的にこちらの砦を攻略をしてくるつもりなのだろう。 その前に、芽を潰してしまおうと考えたのである。 天空殿からの返事はYES。 しかも水帝直々の援軍ということである。 さて、どうして魔神将共を料理してやろうと考えを巡らせながら眠りにつくのだが、 そこでやはり、あの冒頭の悪夢なのである。 「・・・は・・・っ!!!」 肩の辺りまで真っ直ぐに伸びた銀髪を振り乱すようにして バサラはベッドから跳ね起きた。 額にはびっしりと汗が浮かんでいて、あちこちに髪がはりついている。 「今日のは・・・いつも以上に・・・生々しかったな・・・」 汗を拭い、髪を整え、水差しの水を飲んでから、寝室の窓を開ける。 そこには赤い月が浮かんでいた。 まるで、眼のような、細い下弦の三日月である。 「!!」 そのとたん、バサラは闇に包まれるような感覚に陥っていた。 そして、聞こえる、あの声。 『飛び出せ。そして全てを殺してしまえ』 バサラは思わず、額を押さえてしゃがみこむ。 「やめてくれ!悪夢は、もうたくさんだ!」 声は尚も続いた。 『いつまでそうしているつもりなのだ?お前にはもうその力があるというのに』 その声に引きずり出されるように、 心の奥にしまっていた感情が、じわり、と染み出てくる。 ヴリトラに対するヴリトラへの、妬み、そして、恨み。 『お前の村は見捨てられたのだ。神将共の命と引き換えに』 「やめろ!やめろ!やめろおおおおおおおお!」 バサラを中心に疾風が巻き起こり、部屋の中を荒れ狂う。 水差しがテーブルごと壁にぶつかり、ぐしゃりと音をたてて割れると、 飛び散った水が赤い月光に照らされ、紅に輝きながら風にかき消されていく。 「俺は・・・俺は・・・!!」 あらゆる家具が刃と化した風に抉られ、消し飛んでいく中、 蹲ったバサラは頭をかきむしる。 ―そして。 風が止み、跡形も無くなった部屋の中心に立ち上がった彼の口元には、 邪悪な笑みが浮かんでいた。 『飛び出せ。そして全てを殺してしまえ』 その声にうなずくと、彼は窓から身を翻し、姿を消した。 その行き先が明らかになるのは、その数時間後のことである。 実験的にあげてみる、大戦時シリーズです。 どのくらいの需要があるのか謎ですが・・・ とにかく、妄想は熱いうちに撒き散らせ、ということで。 update 2011/07/12 |