風帝強襲
【序章】 彼はうなされていた。 大挙を成して迫りくる魔神将。 次々に火を放たれ、破壊されていく家。 逃げ惑う中、惨殺されていく村人達。 その地獄を、見つめているしか出来ない自分。 10歳にも満たない、幼い彼には物陰に隠れていることしか出来ない。 もう何度この夢を見ただろう。 昔、彼の故郷が壊滅したときの夢を。 そして決まって声が聞こえてくるのだ。 「飛び出せ。そして全てを殺してしまえ」と。 淫靡で、甘い響きの低いその声が、彼の心を揺さぶる。 それに必死で抗いながら彼は頭を抱えるのだ。 「やめてくれ!あれは・・・仕方なかったんだ!間に合わなかったんだ!誰も!」 そう、天空樹の麓に広がる平原の東の辺境にあった彼の村は、 この大戦によって滅んだ。 水帝ヴリトラの指揮する救援部隊が到着したのは、 彼の村が魔神将達によって壊滅させられてから僅か数時間後。 彼はその村の唯一人の生き残りであった。 隠れている所を救援に来た神将に救い出されたのだ。 そして、それから約500年経った今。 彼はその村の跡地に作られた砦の指揮官室にいた。 彼の名を、風帝バサラ、という。 |